遺言書の効力は?遺言書でできること、無効になるケースを解説
相続手続
執筆者 司法書士 上垣 直弘
- 兵庫県司法書士会登録番号 第1549号
- 簡易裁判所訴訟代理認定番号 第712178号
日頃、東播磨地域(明石市、加古川市、高砂市、稲美町、播磨町)や淡路市、神戸市にお住まいの個人、中小企業の方から不動産登記手続を中心に年間100件以上のご依頼を受けています。中でも遺産整理手続の依頼は多く、これまで遺産の名義変更や処分、不動産の相続登記を数多く取り扱った実績があります。
目次
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- はじめに
- 1.遺言書の効力
- 1-1.遺言書でできること
- 1-2.遺言書の種類で効力は変わるか
- 1-3.遺言書の効力を実現させる方法
- 1-4.遺言書の効力の発生時期
- 2.遺言書が無効となる場合
- 2-1.作成日が特定できない(具体的な日付の記載がない)
- 2-2.遺言者の署名・押印がない
- 2-3.遺産分割につき具体的・正確な記載がない
- 2-4.遺言書記載の訂正方法の間違い
- 2-5.複数人で1つの遺言書を作成している
- 2-6.作成時に遺言能力がなかった
- 2-7.詐欺・脅迫のもと作成を強制された
- 2-8. 証人不適格者が立会い作成した
- 3.遺言書を無効にしたい場合
- 3-1.相続人等全員で遺産分割
- 3-2.遺言書無効確認調停・遺言書無効確認訴訟
- 3-3.遺留分侵害額請求
- 4.まとめ
はじめに
このコラムでは、遺言書作成によりできること、遺言書が無効となるケースなどについて紹介しています。
1.遺言書の効力
遺言書は、遺言者の遺志を法的に反映する重要な文書です。
生前に遺言書が残されていた場合、遺産分割にあたりその内容が優先されます。
そのため、遺言は自身の財産の分配方法などを明確に指示することができる有効な手段のひとつです。
1-1.遺言書でできること
遺言書で実現可能な内容は、次の財産処分行為や身分行為があります。
- 遺産分割方法の指定
(具体的にどの相続人に、何を、どれほど渡すかの指定。又は遺産分割の禁止。) - 相続分の指定
(法定相続分とは異なる割合で相続人の全部または一部の相続分の指定。) - 相続人以外への贈与(遺贈)
(内縁のパートナー、子の配偶者、法人・団体への寄付など) - 子どもの認知
(民法781条、遺言認知。婚姻関係に無い女性との間に生まれた子に相続権が発生する。)
※ 上記の認知以外の養子縁組、離縁、結婚、離婚といった身分の指定については法的効力は生じません。 - 相続させないこと
(虐待や重大な侮辱をする相続人の廃除) - 親権者のする未成年後見人の指定(民法839条)
- 遺言執行者の指定
- 生命保険金の受取人の指定・変更
遺言書には、相続分や遺産分割方法の指定などの指示を含めることができます。
例えば、特定の相続人に特定財産を譲渡すること、他相続人より多く遺産を取得させたい場合や、法定相続人以外の第三者に財産を遺贈することが可能です。
また、遺言書で親権者は未成年の子供の後見人を指名することもでき、親権者である遺言者が亡くなった後の子供の生活を保障する役割も果たします。
このほか、葬儀や納骨の希望方法、臓器提供などの指定、お墓や仏壇など祭祀承継者の指定、特定の相続人にのみ相続税納付の負担を依頼すること、相続人らへの感謝の気持ちを伝えるメッセージ(付言事項)なども書くこともできます。
なお、おひとり様といった財産を残す相手がいない場合、遺言以外で「死後事務委任契約」を結んでおくことで、死後の手続き(未払いの入院費・施設使用料、葬儀・埋葬など)を第三者にお願いすることができます。
このように正しく遺言書を作成することは、予定された本来の効力を発揮することになり、遺産相続に関するトラブルを未然に防ぎ、遺産分割を円滑に進めることが期待できます。
1-2.遺言書の種類で効力は変わるか
遺言書にはいくつかの種類があり、その効力や信頼性はそれぞれ異なります。
代表的な遺言書の種類には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。
自筆証書遺言 | |
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内容 |
遺言者が自ら書くもので、日付、署名、押印が必要です。 法務局の保管制度を利用すると安全性が高まります。 なお、第三者による代筆はできません。 |
法的効力へのリスク | 形式不備で無効になる可能性が高く、法務局で保管しないケースでは偽造・紛失のリスクがあります。 |
公正証書遺言 | |
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内容 | 公証人が作成するもので、法的に強力な証拠力があります。 他方、公証人の手数料などの費用がかかります。 |
法的効力へのリスク | ※ 法律に詳しい公証人が作成するため法的に有効な遺言を作成でき、公証役場で保管されるため偽造変造のリスクは少ないです。 |
秘密証書遺言 | |
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内容 | 内容を秘密にしたまま、公証人の前で署名押印して保管する方式です。 なお、法務局の遺言書保管制度を利用できません。 |
法的効力へのリスク | 形式不備で無効になる可能性が高く、遺言を見つけてもらえない可能性があります。 |
上記種類の別により「遺言書でできる内容」に違いはありませんが、それぞれに利用上のメリット・デメリットがあります。
自筆証書遺言は基本的に遺言者が自ら全文を手書きする形式です。
最も簡単にできる遺言の方法です。
ただし、一般の方が何も知らずに作成するケースが多く、法律上の形式不備により無効となったり、紛失したりするリスクの高い方法です。
また、残された相続人間で遺言書の有効性を争う裁判で、もっとも多い形式です。
公正証書遺言は、公証人の立会いのもと作成するため形式不備のリスクが低く、公証人役場でも遺言書を保管するため偽造変造や紛失の恐れがない、法的効力や信頼性が最も高い遺言方法です。
秘密証書遺言は、内容を秘密にしつつ公証役場で保管してもらう形式です。
内容の漏洩を防ぎつつ、偽造変造や紛失のリスクの低い遺言方法です。
あなたの希望をかなえる上で、これらの遺言方法の違いを理解し、適切な形式を選ぶことが重要です。
自分ひとりで遺言書を作成することに不安があれば、司法書士などの専門家に相談することで、最適な方法を選択するサポートを受けるのも良いでしょう。
1-3.遺言書の効力を実現させる方法
遺言書が残されているからといって、その効力は絶対のものではありません。
遺言書の効力を確実に実現させるためには、書き方など作成の過程において、いくつかの重要なポイントがあります。
有効に遺言内容を発揮させるためには、法律で定められた形式を厳守し作成することが必要です。
1-4.遺言書の効力の発生時期
遺言書の効力は遺言者の死亡時に発生します。
遺言書に記載された内容は、遺言者の生存中には効力はありません。
また、遺言書に有効期限はありません。
遺言書が残されている場合、相続人や受遺者はその内容にもとづいて、遺産の分配などがおこなわれます。
公正証書遺言や法務局で保管されていた自筆証書遺言以外の遺言書は、発見した際に家庭裁判所で検認を受けることが法律上の義務となっています。
検認手続きは遺言書が法的に有効であることを証明する手続きではありません。
相続人に遺言が存在すること、遺言書の内容を明確にしておくことで偽造変造を防止するための手続きです。
参考記事
- 遺言書を見つけた際の検認申立(記載例つき)
自宅保管されていた封筒に入った遺言書を発見した時、勝手に開封してはいけません。
すぐに家庭裁判所に遺言の検認手続きをとります。
この義務に違反した場合、行政罰として5万円以下の罰金(過料)の処分を受ける可能性があります。
この記事では、遺言書発見から検認手続きまでの流れや注意点について、検認手続きの書式を交えながら司法書士が説明しています。
2.遺言書が無効となる場合
無効に該当するケースについて説明します。
- 作成日が特定できない(具体的な日付の記載がない)
- 遺言者の署名・押印がない
- 遺産分割につき具体的・正確な記載がない
- 遺言書記載の訂正方法の間違い
- 複数人で1つの遺言書を作成している
- 作成時に遺言能力がなかった
- 詐欺・脅迫のもと作成を強制された
- 証人不適格者が立会い作成した
2-1.作成日が特定できない(具体的な日付の記載がない)
被相続人が複数の遺言書を残していた場合、それぞれ内容が矛盾・抵触する事項については後日付の遺言書が有効になります。
そのため、具体的な日付を記載する必要があります。
2-2. 遺言者の署名・押印がない
自筆証書遺言において、法律上、氏名を自書(署名)し押印することが求められています。
署名押印のない自筆証書遺言は、法律で求める形式に違反するため原則無効となります。
なお、この際にする署名は戸籍謄本などの公的文書に記載のある氏名のことです。
ニックネーム、俳号(俳名)などで自署することは止めましょう。
一般的に遺言書は、相続時の遺産整理手続きで使用します。
たとえば、預貯金口座の解約をする際に、預貯金口座の名義と遺言書に自署されている名前が異なる場合、金融機関は同一人物であるかを客観的に判断することができず、解約や払い出しに応じてもらえない可能性が高いです。
解約などを拒否された場合、払い出しを求めて金融機関に対して訴訟をおこす必要が生じてしまいます。
2-3.遺産分割につき具体的・正確な記載がない
相続後の遺産整理手続きをスムーズに進めるために、遺言書には「どの財産」を「誰」に対して、「どの程度(割合)」相続させるのかについて具体的に特定し記載されていることが必要です。
あいまいな記載部分があると、相続人等の間で遺言内容の解釈が分かれてしまい、相続トラブルに発展する可能性があります。
一方で、具体的に書きすぎて後々問題が発生するケースがあります。
たとえば、遺言書の中で「預貯金」について相続の指定をする際、基本的に残高は記載しません。
相続による預貯金解約時、遺言書がある場合はその原本を金融機関に提示します。
遺言書作成時から相続開始までにある程度期間が経過すると、残高が変動することがあります。
金融機関によっては、遺言書に書かれている預貯金口座の情報と同一性の確認が取れないとして、解約に応じてもらえない可能性があります。
このように遺言書の書き方には、死後の相続手続きを見すえた配慮も必要です。
2-4.遺言書記載の訂正方法の間違い
自筆証書遺言の内容を修正する場合、法律上求められている正しい訂正方法します。
変更の場所を指摘して、変更した内容を付記してこれに署名して、その変更の場所に押印し訂正します。(民法第968条第3項)
2-5.複数人で1つの遺言書を作成している
たとえば、夫婦で1つの遺言書を共同作成することはできません(民法第975条 共同遺言の禁止)。
共同で作成することで、一方の遺言者は自由に撤回できず、法律関係を複雑にさせてしまう恐れがあるため、法律上禁止されています。
2-6.作成時に遺言能力がなかった
遺言者は15歳以上で、遺言内容や、その先の結果に対しても理解できる能力(意思能力)があることが必要です。
なお、認知症であった人がする遺言書は一律で無効になるわけではありません。
認知症とはいえ、一時的に意思能力を回復する場合があります。
たとえば、精神上の障害により判断能力を欠く成年被後見人であっても、医師2名以上の立会いがあることで遺言をすることが可能です。
2-7.詐欺・脅迫のもと作成を強制された
詐欺・脅迫などにより強制されて書いた遺言書は、遺言の自由意思が侵害されているため無効になる可能性があります。
また、第三者により偽造変造された遺言書も無効となります。
なお、詐欺・脅迫により遺言を撤回してしまった場合、その撤回行為自体を取り消すことで、撤回した遺言の効力が復活します(民法第1025条)。
2-8.証人不適格者が立会い作成した
公正証書、秘密証書遺言では2名以上の証人の立会いが必要です。
また、証人になることができない「証人不適格者」が法律で定められています。
未成年、遺言者の推定相続人、遺言で贈与を受ける予定の人(受遺者)、公正証書で作成する場合の公証人の関係者などは、証人となることができません。
1.未成年者
2.推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
3.公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
上記①から⑧に加えて、自筆証書遺言の場合、基本的に全て自筆で書くことが求められます。
ただ、平成31年1月13日以降に作成する自筆証書遺言では、自筆証書遺言書に添付する「財産目録(相続財産の全部又は一部の目録)」については、パソコン等で作成することができます。
しかし、パソコン等で財産目録を作成する場合は、自筆証書とは別用紙で作成し、それぞれ1枚ごとに署名押印が必要です。
なお、遺言内容を実現するために遺言執行者を指定することも有効です。
遺言執行者は、遺言者の意思を実現するために必要な手続きを行う責任を持ち、その指定により遺言の実現が円滑に進む可能性が高まります。
3.遺言書を無効にしたい場合
相続の際、ご自身に不公平・不利な内容の遺言を見つけた時に、納得がいかない「遺言を無効にしたい」と考えるかもしれません。
相続人として遺言書の内容を争う場合、次の方法を検討します。
3-1.相続人等全員で遺産分割協議
遺言書による遺産分割の指定の効力は絶対のものではありません。
相続人全員が協力し合意することで、事実上遺言書と異なる内容で遺産分割をすることができます。
この場合、全員の同意が必要となるため、相続人間での調整が重要です。
特に、家族間の信頼関係が強固である場合、この方法が最も円滑に進むでしょう。
反対に、相続人間で感情的な対立がある場合、合意は難しいと言えます。
遺産分割は、法律上相続人全員でおこなうことが求められており、要件を欠く場合には遺産分割協議は無効となります。
遺産分割協議が無事成立した場合、通常は遺産分割協議書を作成します。
口頭だけで済ませると、後日のトラブルに繋がることや、被相続人名義の預貯金口座の解約などの遺産整理手続きの必要書類として各所から提出を求められることがあり、書面で作成しておくことがほとんどです。
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本記事では、パターン別の遺産分割協議書サンプルをご確認いただけます。
なお、遺言書により「相続開始から5年以内の期間を定めて遺産分割を禁止する」ことができます(民法第908条)。
この禁止期間中にした遺産分割は、原則として無効となります。
② 共同相続人は、5年以内の期間に定めて、遺産の全部又は一部について、その分割をしない旨の契約をすることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。
③ 前項の契約は、5年以内の期間を定めて更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。
また、相続人の間で遺産分割の禁止をおこなうことも可能です。
未成年である相続人があと少しで成年になるまで待ちたいとき、相続人間で感情的な対立がある場合に冷却期間を置きたいとき、相続財産などについて慎重に調査をする必要があるケースなどで、遺産分割禁止の取決めをすることがあります。
ただ、遺産分割を禁止されていても、相続税申告をおこなわなければなりません。
相続税申告は「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内」にしなければならず、申告期限が延長されないことに注意が必要です。
参照リンク
”相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日(通常の場合は、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内に行うことになっています。
例えば、1月6日に死亡した場合にはその年の11月6日が申告期限になります。
なお、この期限が土曜日、日曜日、祝日などに当たるときは、これらの日の翌日が期限とみなされます。”
3-2.遺言書無効確認調停・遺言書無効確認訴訟
遺言書の作成過程で疑問が残るケースがあります。
たとえば、被相続人の身柄や財産を確保した兄弟姉妹などの親族が、知らぬ間に自分たちに有利な遺言書を作成しているケースです。
遺言書が有効に作成される条件のひとつに、遺言能力があります。
遺言書作成時、遺言者が遺言内容などを理解・判断できる意思能力がない認知症であった場合、遺言書は無効になる可能性があります。
このようなケースでは、家庭裁判所に対して遺言無効確認調停や訴訟を提起することを検討します。
遺言書無効確認調停は、家庭裁判所の調停委員が仲裁に入り、相続人間の争いを解決する法的手続きです。
当事者間で合意できず調停不成立で終了する場合、訴訟に進むことになります。
遺言無効確認訴訟では、具体的な理由と証拠(遺言書の形式不備や遺言者の意思能力の欠如、脅迫・詐欺の事実などによる立証)をもって、遺言書の無効を主張します。
専門的な手続きとなるため、弁護士のサポートを受けることが一般的です。
弁護士費用はかかるものの、効果的な主張と証拠の収集が可能となります。
3-3.遺留分侵害額請求
遺留分は、被相続人の兄弟姉妹を除く相続人に法律上保障されている最低限の相続分です。
遺言内容が遺留分を侵害されている遺留分権利者は、遺留分侵害額請求を行うことができます。
遺留分侵害額請求を行うためには、家庭裁判所に対する申立てが必要であり、具体的な手続きや証拠の提出が求められます。
また、相続財産調査や財産評価なども必要になります。
訴訟(裁判)専門家である弁護士の対応範囲です。
アドバイスを受けることで、適切な対応が可能となります。
4.まとめ
遺言書は、遺言者の生前の意思を示す遺産分割にあたっての重要な文書であり、その効力や有効性は、形式的な要件(法律)を満たすかを基準に判断されます。
適切な遺言書の作成と管理により、家族間の争いを未然に防ぎ、円満で円滑な遺産分割により、遺言書の内容を適切に実現することができます。
せっかく遺言書を作成しても無効になっては意味がありません。
自分1人で遺言書の作成や管理に不安や心配がある場合、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
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