住宅購入時に金融機関などから借り入れをおこない、不動産に設定する「抵当権」。
完済などにより抵当権の抹消をおこなう場合に、どのような点に注意しながら、手続を進めるのかなど、抵当権抹消を考えている不動産所有者の方に知っておいて欲しい基礎知識について解説します。
抵当権抹消登記の手続
抵当権とは金融機関などが住宅ローンなどのお金を貸すときに、不動産を担保として確保するための権利です。
そして抵当権抹消登記とは、不動産に設定された抵当権を抹消する手続のことをいいます。
たとえば、住宅ローンを組んでマンションを購入した場合、その担保としてマンションの建物などに抵当権を設定します。
債権者である銀行などの金融機関は、債務者から返済を受けられない場合に、担保権を実行して競売手続きにより不動産売却をおこない、回収をはかります。
住宅ローン完済後には、担保するものがなくなるので抵当権も消滅します。
しかし、抵当権が消滅したからといって、自動的に抵当権を抹消する手続がなされるわけではありません。
ご自身で不動産を管轄する法務局に対し、抵当権抹消登記を申請する必要があります。
抵当権抹消手続をおこなうことができるケース
抵当権の抹消手続きをすることができるケースは次のとおりです。
住宅ローンなど借入の完済(債務の消滅)
住宅ローンや事業資金などを金融機関から借入れた場合、その借入の担保として不動産に抵当権を設定することが一般的です。
それらの借入をすべて返済すれば、債務は消滅します。
債務が消滅すれば、それを担保するために設定していた抵当権も消滅します。
権利混同による抹消(混同)
同一物について、所有権と抵当権が同一人に帰属したときは、抵当権は混同によって消滅します。(民法179条第1項)
たとえば、AさんがBさんにお金を貸したので、その担保としてBさんの甲土地に抵当権を設定した後、Aさんが何らかの理由で甲土地の所有権を取得したような場合です。
この場合、Aさんとしては、自分の土地に自分の抵当権が存在しても意味がないので、原則として抵当権は消滅します。
休眠抵当権の抹消
休眠抵当権とは、一般的には「明治、大正・昭和初期にかけて設定され、長年にわたり放置されている抵当権」のことをいいます。
長年にわたり放置されているため、休眠抵当権で担保されている債権は、すでに完済されているか、時効などにより消滅している可能性が高く、それにともない抵当権も消滅している可能性が高いです。
したがって、休眠抵当権が残っている場合は、これを抹消する手続をおこなうことを検討したほうがいいでしょう。
ただし、休眠抵当権の抹消は、抵当権者(債権者)が個人の場合は死亡していたり、会社の場合は解散してもう存在していないことが多く、大変な作業になる可能性があります。
相続税の支払いを終えた時(完納)
相続税を一度に納めることが困難な場合は、担保を提供して延納することができます。
延納手続をとると、財務省が不動産に抵当権を設定します。
相続税の支払いを終えたときは、抵当権は消滅し、これを抹消する手続をおこないます。
抵当権の抹消登記をしないことのデメリット・リスク
抵当権を抹消できる状況にあるにもかかわらず、そのまま放置することはデメリット・リスクが高いといえます。
具体的にどのような場合に、そうしたリスクが高まるのかについて解説します。
不動産を売却できない
住宅ローンなどの債務を完済し、実質的に抵当権が消滅したとしても、抵当権抹消登記を申請しないかぎり登記簿には抵当権が設定されたままの状態になります。
つまり、第三者から見ると債務が残っていて、抵当権の効力があるようにみえてしまいます。
一般的に他人の債務の担保になっている不動産を購入したいと思う人はいないでしょう。
また、買主が住宅ローンを利用して不動産を購入する場合は、買主の住宅購入資金を貸出す金融機関についても同じことが言えます。
したがって、抵当権が残っている不動産を売却する場合、買主へ所有権移転登記手続をする前、もしくは遅くとも同時に抵当権抹消登記手続をおこなう必要があります。
書類収集の手間が増えたり抵当権抹消手続が複雑になる
例えば、相続登記は義務化され、申請に期限があります。
抵当権の抹消登記は申請期限はありません。
しかし、債務を完済し、抵当権を抹消できる状態でありながら、抹消手続をせずに期間が経過してしまうと、次のようなリスクが発生します。
たとえば、書類収集(戸籍謄本など)の手間が増えたり手続が複雑になるなどのリスクがあります。
- 不動産の所有者に相続が発生する。
- 抵当権者(債権者)が金融機関などの法人である場合、
合併や解散、倒産などにより消滅する。
この場合、供託や裁判手続きが必要になるなど費用・手間が余計にかかります。 - 抵当権者(債権者)が個人である場合、
抵当権者の所在がわからなくなったり、
相続により抵当権者が増え権利関係が複雑になる。
また、よくあるのが、抵当権抹消手続を放置している間に、債務の完済後に金融機関から不動産所有者に渡された抵当権抹消登記手続に関する書類を紛失してしまうケースです。
その場合、金融機関に対し、抹消するための書類の再発行を依頼することになります。
しかし、抵当権の権利証(登記識別情報通知または登記済証)については紛失してしまうと再発行できないため、抵当権抹消登記手続の際に余分な時間と費用が発生する可能性があります。
このように抵当権の抹消登記を放置することで、手続きが複雑になったり、新たな融資が受けられないなどのリスクが発生します。
そのため、債務を完済した際は、速やかに抵当権抹消の手続をおこなうことをおすすめします。
抵当権抹消をおこなうタイミング
-
- 不動産売却のとき
- 不動産を担保に新規融資を受けるとき
- 住宅ローン完済のとき
抵当権抹消登記手続の流れ
ここでは、住宅ローンを完済した場合の抵当権抹消手続の流れや手順について解説します。
金融機関から抵当権抹消に必要な書類が届く
住宅ローンを完済した場合、金融機関から抵当権抹消に必要な書類一式が届きます。
抵当権抹消手続に必要な書類は以下の3つになります。
なお、公的機関から交付され、申請書に添付する書類は有効期限を設けている場合があります。
こうした点からも、速やかに手続きを進めていく必要があります。
- 抵当権解除(または弁済)証書
抵当権抹消登記を申請するときに、法務局に対して抵当権を抹消する原因を証明するための書類になります。
抹消する抵当権を特定する登記の受付年月日や、抹消する抵当権が設定されている不動産の表示などの必要事項が空欄のまま届く場合があります。
その場合は登記事項証明書を確認しながらご自身で記入する必要があります。 - 登記済証または登記識別情報通知
抵当権を設定した際に発行されていた書類です。
登記済証は、登記済証というタイトルの書面ではなく、抵当権設定契約証書に法務局の「登記済」という 赤いハンコが押されているものです。
登記識別情報通知は、その名のとおり登記識別情報通知というタイトルの文書で、下部に目隠しシールがあるものです。
これらの書類は受け取ったあと紛失すると再発行はできませんので、抹消登記をおこなうまで厳重に保管する必要があります。
紛失している場合には通常の手続き方法では登記ができませんので、手間がかかります。 - 金融機関からの委任状
抵当権抹消登記は抵当権者と不動産所有者が共同で申請する必要があります。
ただし、一般的に金融機関からは「抵当権抹消登記の申請を委任します」という内容の委任状が発行され、委任をうけた不動産所有者(または司法書士に依頼する場合は司法書士)が申請をおこなうことになります。 - 金融機関の会社等法人番号が記載された書面
金融機関の会社等法人番号を登記申請書に記載する必要があり、それを案内する書面です。
金融機関によっては、案内文がなく委任状に会社等法人番号が記載されていることもあります。
登記事項証明書を取得する
登記申請書などの作成にあたり、法務局で抵当権を抹消する不動産の登記事項証明書を取得します。
登記事項証明書を取得するには、土地であれば「所在」「地番」、建物であれば「所在」「家屋番号」が必要です。
特に都市部では、「地番」「家屋番号」が住所と異なる場合があるので注意が必要です。
金融機関から届いた「登記済証または登記識別情報通知」に抵当権が設定されている不動産の表示が記載されているので、「地番」「家屋番号」を確認して請求されることをおすすめします。
なお、登記事項証明書は全国どこの法務局でも取得可能です。
また、オンラインによる請求、取り寄せも可能です。
オンラインで請求し自宅や勤務先である会社に郵送で、あるいは法務局に取りに行くこともできます。
登記申請書を作成する
登記申請書を作成し、申請書類を準備します。
申請書の記載例は次のとおりです。
なお、登記申請書の例をもとに、各項目について解説いたします。
図表 抵当権抹消による登記申請書の書式記載例
①原因および日付
通常は住宅ローンを完済した年月日を記載します。
原因および日付は、金融機関から届いた抵当権解除証書に記載されていますので、確認のうえ記載します。
②抹消すべき登記・共同担保目録の記載
抹消すべき登記は、登記事項証明書を確認し、抹消する抵当権の「受付年月日・受付番号」を記載します。
共同担保目録は、抵当権が土地と建物など2筆以上に設定されている場合に存在します。
存在する場合は、同じく登記事項証明書の「権利者・その他事項」の欄の最下部に記載されています。
③権利者
ご自身(不動産所有者)の住所・氏名を記載します。
④義務者
金融機関の住所・社名・代表取締役・会社法人等番号を記載します。
金融機関の委任状などを確認しながら記載しましょう。
⑤申請何月日および管轄法務局
法務局へ申請する年月日と管轄法務局を記載します。
⑥権利者兼義務者代理人
ご自身(不動産所有者)の住所・氏名・連絡先を記載し押印します。
連絡先は登記申請後、申請書などに補正(訂正)がある場合に、法務局が申請人へ連絡するために使用します。
押印は実印である必要はなく、認印でも大丈夫です。
⑦登録免許税
抵当権抹消登記の登録免許税は、不動産の数×1,000円となっています。
⑧不動産の表示
抵当権を抹消する不動産を記載します。
取得した登記事項証明書のとおりに正確に記載しましょう。
抵当権抹消登記手続きの費用(登録免許税)
抵当権の抹消登記には、登録免許税と呼ばれる税金がかかります。
不動産1件につき、1000円です。
一戸建ての土地、建物の場合はいくらになるのかを考えてみます。
2筆の土地の上に、1つの建物が建っていて、それらがすべて共同担保の対象になっていた場合の金額の計算方法は、不動産3×1000円=3000円となります。
登録免許税相当の税金は、登記申請書に台紙をつけて収入印紙を貼り提出します。
なお、オンラインによる登記申請の場合には電子納付でおこないます。
司法書士に依頼した場合の費用(司法書士報酬の相場)
抵当権抹消登記を司法書士に依頼される場合の司法書士報酬の相場は、1万円~であることが多いです。
当事務所でも、相場での費用で手続きを代行しています。
ご自身で手続きをおこなうよりも、簡単で少ない負担でスムーズに進められるようサポートいたします。
ぜひお気軽にお問い合わせください。
申請・補正をおこなう
申請書および添付書類が完成したら管轄の法務局へ申請します。
不動産の所在地ごとに管轄する法務局(登記所)は異なります。
申請は窓口に直接持参するほかに、送付による郵送申請も可能です。
なお、マイナンバーカードを所有されている場合、オンラインによる登記申請も可能です。
しかし、オンラインですべて完結するわけではなく、オンラインで申請受付から2日以内(休日等を除く)に、「添付情報(添付書類)」と、どのような添付情報を提出するかの「書面により提出した添付情報の内訳表」を法務局(登記所)の持参、または郵送しなければなりません。
オンライン申請には専用の申請用総合ソフトのダウンロードしインストールが必要になるなど、個人の方が手続きをおこなうには手間がかかることがあります。
申請後、申請書や添付書類の内容に誤りや不備などがあれば、法務局から補正の連絡があります。
補正の抵当権は管轄法務局に出向いておこなう必要があります。
登記完了書類の受領、事後謄本の取得
抵当権抹消登記申請時に登記完了予定日を確認しておきましょう。
法務局のホームページでも申請日に対応する登記完了予定日が掲載されています。
法務局から登記が完了した旨の連絡はありませんので注意してください。
申請後に補正の連絡がなければ、登記完了日以降に登記完了書類を受け取りに行きます。
なお、郵送での登記完了書類の返却も可能です。
希望する場合は法務局への申請時に、返信用封筒(簡易書留・レターパックプラス)も提出する必要があります。
最後に登記事項証明書を取得し、抵当権が確実に抹消されていることを確認することをおすすめします。
これを登記後に確認することから「事後謄本(じごとうほん)」と言います。
抵当権抹消登記を司法書士に依頼したほうがいいケース(抵当権抹消登記の注意点)
たとえば、住宅ローンを完済したことによって抵当権抹消登記のみを申請するのは、それほど難しいことではありません。
ただし、以下のケースでは、司法書士への依頼を検討されることをおすすめします。
お仕事などで時間がない・面倒
抵当権抹消登記のみでも、
「平日に法務局へ出向く時間がない」、
「そもそも自分で手続をおこなうことが面倒」といった場合は、司法書士へ依頼されることをおすすめします。当事務所でも、このケースで依頼される方が多いです。
抵当権抹消登記の前に他の手続が必要
抵当権抹消登記の前に他の手続が必要な場合として、主に次のようなケースがあげられます。
不動産所有者の所有者の住所・氏名に変更がある
登記簿に記載されている所有者の住所・氏名が、現在の住所・氏名と一致しない場合、抵当権抹消登記の前に、登記簿上の住所・氏名を現在の住所・氏名に変更する手続が必要です。その場合は、住民票や戸籍謄本などが必要になります。
不動産の所有者が亡くなっている、または亡くなった
住宅ローンなどの債務を完済した日と不動産所有者が亡くなった日の先後で、とるべき手続が変わりますが、不動産の相続登記や、相続を証する書類として戸籍謄本などの書類が必要になります。
これらのケースでは、手続が増えるため、難易度が上がります。
ご自身で手続をおこなうことが難しいと感じる場合は、司法書士に依頼されることをおすすめします。
不動産の売却と同時に抵当権を抹消する
不動産の売却代金で住宅ローンを完済し、抵当権を抹消するケースです。
このケースでは、通常、買主が売買代金を支払う条件として、売買による所有権移転登記申請と同時に抵当権抹消登記申請をおこなうことが定められています。
買主は、売主の抵当権抹消が確実におこなわれることを確信できないかぎり、売買代金を支払ってくれません。
そのため、このケースでは司法書士へ依頼されることが必要になります。
休眠抵当権の抹消手続
休眠抵当権の抹消は、抵当権者の調査など、かなり大変な作業になりますので、ご自身で手続をおこなうことは非常に難しいでしょう。
休眠抵当権の抹消は、個別の事情をみながら、とるべき手続を判断していきますが、供託という手続や、場合によっては裁判を提起する必要が発生したりします。
手間と費用がかかりますが、司法書士に依頼されることをおすすめします。
抵当権抹消登記のフルサポート
抵当権の抹消登記は、平日に2~3回ほど法務局に出向くことになります。
お時間にゆとりがある方であれば、ご自身で登記の申請をすることも可能です。
しかし、手続きに不安のある方、手続について調べるのが面倒な方、法務局(登記所)へ行く時間が取れないという方は、司法書士に依頼されることをおすすめします。
また、抵当権の抹消登記には、個別の事情によってさまざまなケースがあります。
例えば、休眠抵当権の抹消登記など、複雑な手続が必要で司法書士に依頼したほうがよいケースもあります。
抵当権の抹消登記についてわからないことがあれば、当事務所までお気軽にご相談ください。
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