マンション、戸建ての不動産を購入した際に、ご自身へ所有者の名義変更をおこなうための登記手続の流れ、必要書類などについて解説します。
不動産の名義変更
不動産の名義変更とは、法務局に申請書および必要書類を提出し、不動産の所有者名義を変更する手続です。
たとえば、Aが所有する甲土地をBに売却した場合、甲土地の登記簿について、その記載されている所有者をAからBに変更する手続のことをいいます。
なお、不動産登記簿は不動産ごとに、その所在を管轄する法務局に備えられており、不動産の物理的概況および権利関係(所有者の住所氏名、担保の有無など)が記載されています。
不動産の名義変更が必要な場合
実は不動産の名義変更は、法律的には義務ではありません。名義変更をするかしないかは所有者の任意です。
したがって、不動産の所有権自体は、名義変更がなくても移転します。
ただし、民法177条は「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない」と規定しています。
簡単にいうと、自己の所有権を第三者に主張するためには名義変更が必要になるということです。
たとえば、Aが自己所有の甲土地をBに売却した後、Bが名義変更をしない間に、AとBの契約を知らないXに甲土地を売却(二重譲渡)したとします。この場合、XがBよりも先に、Xへの名義変更をしてしまうと、民法177条の規定により、BはXに対して自己の所有権を主張できないことになります。つまり、原則として登記をすることで初めて誰に対しても自己の所有権を主張できることになります。
したがって、不動産を取得した場合は速やかに名義変更の手続をおこなうことをおすすめします。
この不動産の名義変更は、主に次の4つのケースで発生します。
「相続」による名義変更
不動産の所有者が亡くなった場合、その不動産は一般的に相続人に相続されます。
相続で不動産を取得したときは、相続人への名義変更手続をおこないます。名義が自動的に変更されるわけではないことに注意してください。
なお、相続の際に名義変更をせずに、亡くなった人の名義のままで長期間放置され続けた結果、現在の所有者がわからない「所有者不明土地」などが問題になっています。
これらを解消するため、2024年をめどに相続登記が義務化される予定です。
具体的には、相続人が相続または遺贈で不動産取得を取得したことを知ってから3年以内に相続登記を申請することを義務化し、違反した場合は10万円以下の過料の対象となります。この義務化にともない、相続登記の手続の一部が簡略化される予定となっています。
「贈与・生前贈与」による名義変更
贈与や生前贈与による不動産の名義変更の手続は、「相続時精算課税制度」や「夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」などの税制度を利用しておこなうことが多いです。
その場合、税務署に対し申告をする必要がありますが、その申告時に名義変更後の登記事項証明書などを提出することになります。
したがって、贈与や生前贈与によって不動産を取得した場合も速やかに不動産の名義変更をおこないましょう。なお、贈与者(あげるほう)と受贈者(もらうほう)が共同して名義変更の申請をします。
「財産分与」による名義変更
財産分与とは、婚姻中に夫婦で協力して築き上げた財産を、離婚の際にそれぞれに分配することです。
婚姻中に購入した不動産は原則として財産分与の対象となります。不動産を財産分与する場合、たとえば財産分与として、夫から妻に対し土地建物の所有権を譲渡する場合は、夫から妻への名義変更が必要です。
なお、裁判による離婚の場合を除いて名義変更の申請は、夫と妻が共同しておこなうこととなります。
「売買」による名義変更
不動産の名義変更が必要となるケースで最も多いのが、この売買による名義変更です。
この場合の名義変更は、売主と買主が共同しておこなうのが原則です。
法律上、名義変更の手続は義務ではなく任意ですが、住宅ローンを利用して不動産を購入するケースでは、金融機関が購入する不動産に抵当権などの担保権を設定するため、名義変更が必要となります。
また、住宅ローンを利用しない場合でも、先に述べた二重譲渡などのリスクがあるため、速やかに名義変更の申請をしましょう。
不動産売買の際の「名義変更」登記(売買による所有権移転登記)
不動産の名義変更の登記手続の流れ、必要書類などについて解説します。
手続の流れ
名義変更のための登記手続の流れは次のとおりです。
図表 不動産売買による名義変更登記手続の流れ
売買契約の締結 | 売主・買主間で売買対象物件や売買代金などについて合意できたら売買契約を締結します。双方の合意内容を明確にするため売買契約書を作成します。 |
---|---|
管轄法務局の確認 | 不動産の名義変更の申請は、売買する不動産の所在地を管轄する法務局に提出する必要があります。管轄は法務局のホームページで確認できます。 例:神戸地方法務局の管轄 |
不動産情報の確認 | 法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を取得し、不動産の物理的概況や権利関係を確認します。 |
必要書類の取得 | 名義変更の登記申請書に添付する必要書類を取得します。売主の印鑑証明書や、買主の住民票の写し、固定資産税評価証明書などです。 |
申請書類の作成 | 取り寄せた書類を参考にしながら登記申請書および登記原因証明情報など、法務局に提出する書類を作成します。 |
代金支払・物件引渡 | 主側で名義変更に必要な売主の書類を確認後、売買代金を売主に支払います。売買代金の支払いと引換えに売主は売買不動産と名義変更に必要な書類(登記識別情報通知や印鑑証明書など)を引渡します。なお、固定資産税などの租税公課の清算も同時におこないます。 |
法務局への申請 | 売買代金(または残代金)の支払い後、買主は売主から名義変更に必要な書類を預かり、登記申請書とともに法務局へ提出します。 |
補正手続 | 法務局へ登記申請後、補正(訂正)箇所があれば法務局から連絡が入ります。補正がある場合は、法務局担当者の指示にしたがい補正します。なお、補正手続きで訂正できないような根本的な間違いがある場合は一度申請を取下げ、訂正後に再申請することが一般的です。法務局からの補正の指示に従わない場合は却下されることとなります。 |
登記完了 | 法務局への申請後、補正などがなければ約1週間で名義変更の手続が完了します。法務局窓口や法務局ホームページで、申請日に対応した登記完了予定日が掲示されていますので、確認されることをおすすめします。なお、法務局から申請人に対し完了した旨の連絡はありませんので、確実に登記が完了しているか知りたい場合は、法務局へ問い合わせていただく必要があります。 |
権利証の受領 | 登記が完了したら、新たに不動産の名義人となった買主には登記識別情報通知(権利証)が発行されます。申請した法務局窓口での受取りか、郵送での受取りかを選択できます。窓口受取りの場合は、申請書に押印した印鑑および本人確認書類が必要です。窓口受取りの場合は、返信用の封用(簡易書留・書留・レターパックプラス)を申請時に、申請書とともに提出する必要があります。 |
必要書類
売買による所有権移転登記の一般的な必要書類など
(※本人申請の場合。なお、個別の事情により他の必要書類が発生する場合があります。)
図表 不動産売買による名義変更登記手続の必要書類
売主 | 買主 |
---|---|
ⅰ)売却する不動産の登記識別情報通知または登記済証登記識別情報通知または登記済証とは、一般的には「権利証」と呼ばれているものです。これらを売主が紛失している場合は、法務局による「事前通知」という手続か、司法書士または公証人が作成する「本人確認情報」という書類で補完することになります。 ⅱ)印鑑証明書および実印印鑑証明書は、発行後3カ月以内という有効期限があります。売主の申請書などへの押印は実印でおこなう必要があります。 ⅲ)売却する不動産の固定資産税評価証明書後述する登録免許税は、固定資産税評価額を基準に算出します。なお、申請する日に応じた最新年度の固定資産税評価証明書が必要です。 ⅳ)住民票の写し売主の登記簿上の住所と現住所(印鑑証明上の住所)が異なる場合は、所有権移転登記に先立って、登記簿上の住所を現住所に一致させる手続(住所変更登記)が必要です。一致していない場合は、登記簿上の住所から現住所までの住所移転の過程がすべて記載されている住民票の写しが必要です。住所移転を複数回おこなっている場合などは、戸籍の附票を取得が必要になることもあります。 その他 ⅰ)登記原因証明情報登記原因証明情報とは、登記の原因となる事実または法律行為を証する情報のことをいいます。簡単にいうと、どんな原因でどういう風に権利が変動したかがわかるように示した書類です。売買による所有権移転登記の登記原因証明情報の場合、「売買契約の事実」「代金全額を支払ったときに所有権が移転するという特約の内容」「売買代金が支払われた事実」「所有権が移転した事実」などを記載します。 |
ⅰ)住民票の写し有効期限はありませんが、最新のものを取得することが望ましいです。 ⅱ)認印または実印買主の場合、申請書などへの押印を実印でおこなうことは求められていません。 |
登記申請書の書き方や、必要書類の詳細は法務局ホームページで詳細を確認できます。一般的なケースの申請書などもダウンロードできますので、自分自身で登記申請される方は参考にしてみてください。
手続費用(税金)
不動産の名義変更をする場合、その前後でさまざまな手続費用(税金)が発生します。ここでは代表的な税金についてご説明します。
①不動産を購入するときにかかる税金
●登録免許税
登録免許税とは、不動産の名義変更などの登記手続の際に国に納める税金のことです。税額は原則として土地や建物の固定資産税評価額に税率をかけて計算します。
●不動産取得税
土地や建物などの不動産を取得した人に対して、都道府県が1回かぎり課す税金のことをいいます。不動産の取得には売買によるものだけでなく、贈与や交換も含まれます。ただし相続などのように形式的な移転の場合は非課税となります。原則として土地建物の固定資産税評価額に税率をかけて計算します。
②不動産を保有しているときにかかる税金
●固定資産税
土地、建物、償却資産(これらを固定資産といいます)に毎年かけられる市町村税であり、毎年1月1日現在、市町村の固定資産課税台帳に所有者として登録されている人にかかります。固定資産税を計算するための基準は、原則としてその資産の固定資産税評価額ですが、一定の住宅用地と新築建物などには、軽減措置などが設けられています。
●都市計画税
都市計画事業や土地区画整理事業にかかる費用の一部にあてるため、市町村が課す税金であり、市街化区域内の土地・家屋が課税の対象となります。税額は、固定資産税評価額を基準に算出します。
③不動産を売却したときにかかる税金
●譲渡所得税
土地や家屋を譲渡して得られる利益のことを譲渡所得といいます。簡単にいうと、「値上がり益」です。この値上がり益にかかる税金を譲渡所得税といいます。譲渡所得税については、給与所得など他の所得とはわけて所得税と住民税を計算し課税されます(分離課税制度)。また、所得税には基準所得税に対して2.1%が復興特別所得税として加算されます。不動産を所有していた年数や、居住用の不動産を売却したなどの特別な条件のもとでは税金が軽減される措置があります。
名義変更における手続負担
不動産の名義変更の手続は、法務局で確認をおこなうことで、時間をかければ自分自身でおこなうことも可能です。自分自身で名義変更手続をおこなう最大のメリットとしては、やはり手続に関するコストが抑えられることでしょう。一方で時間的な負担が大きくなるのも事実です。一般的に名義変更を完了させる過程で次のような手間が考えられます。
ⅰ)法務局での登記事項証明書などの取得やその内容の確認
ⅱ)市区町村役場などでの調査・必要書類の収集
ⅲ)登記申請書・登記原因証明情報などの作成
ⅳ)法務局への登記申請書の提出
ⅵ)申請書などに補正があった場合の法務局での補正手続
ⅴ)法務局で登記完了後の書類の回収、登記事項証明書の取得
など、法務局や市区町村役場に複数回にわたって赴く必要があります。
また、名義変更をする当事者の利益が相反する場合は、名義変更の手続をおこなうことだけでなく取引の安全を守る必要があります。
特に不動産の売買取引では、買主は売主に売買代金を支払っても名義変更をできないリスクがあります。
たとえば、売買代金の支払いと引換えに名義変更の必要書類として預かった売主の権利証(登記済証または登記識別情報)や印鑑証明書が偽造であった場合、登記申請は却下または取下げの対象となり買主名義に変更することはできないことになります。
また、そもそも売主だと思っていた人が不動産所有者本人でなかった場合など、登記名義人でない者が他人になりすまして不正な登記をしたときは、その登記は無効となってしまいます。
したがって、ただ単に名義変更をするだけではなく、名義変更にいたるまでに、名義変更の対象不動産の権利の内容が適正か、権利関係に問題はないかどうかなどを登記事項証明書などで確認します。
また、印鑑証明書などの書類が正しいものなのか、売主に本当に売却の意思があるか、そして最も基本的なことですが売主および買主が本人かどうかなどの確認が重要になってきます。
不動産名義変更登記のフルサポート
不動産の名義変更をすることは任意ですが、登記をしなければ第三者に所有権を主張することができないので、所有権を取得した際は速やかに名義変更の手続をおこなうことをおすすめします。
また、不動産の売買取引のように、当事者双方が義務を負っている(売主は買主に対し完全な所有権を移転させる義務を負い、買主は売主に売買代金を支払う義務を負います)場合は、お互いの義務が果たされていることを確認しながら手続をおこなう必要があります。当事者のみで手続をおこなうことに不安を感じられる場合は、司法書士に相談されることをおすすめします。
当事務所では、個人間の不動産売買、贈与、財産分与による不動産の名義変更手続などについて、契約書などの作成から、必要書類の収集および作成、登記申請の代行、登記完了後の書類の回収にいたるまで、不動産の名義変更手続をサポートさせていただきます。
不動産の名義変更手続でお悩みの方は、お気軽に当事務所までお問い合わせください。