「相続預金の払戻し制度」の解説と利用時の注意点│遺産整理手続シリーズ 明石市の相続相談専門窓口


相続手続

執筆者 司法書士 上垣 直弘


  • 兵庫県司法書士会登録番号 第1549号
  • 簡易裁判所訴訟代理認定番号 第712178号

日頃、東播磨地域(明石市、加古川市、高砂市、稲美町、播磨町)や淡路市、神戸市にお住まいの個人、中小企業の方から不動産登記手続を中心に年間100件以上のご依頼を受けています。中でも遺産整理手続の依頼は多く、これまで遺産の名義変更や処分、不動産の相続登記を数多く取り扱った実績があります。

「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」の背景

制度が設けられた趣旨(利用の目的)

  1. 相続内容が確定するまでに必要となる資金利用に対応するため
  2. 法制度にすることで取引のあった金融機関で利用できるようにした

 

亡くなられた方(被相続人;ひそうぞくにん)の預貯金口座は、その方が亡くなられたことが分かった時点で凍結され、引き出すことができなくなります

これは、相続人による勝手な預金の引き出しが原因で、相続トラブルとなることを避けるためです。

 

平成28年12月19日の最高裁判所の決定により、① 相続預貯金は遺産分割の対象財産とされ、② 相続人が単独で払戻しを受けることができないことになりました。

 

しかし、口座が凍結されてしまうと、葬儀費用などを引き出そうとしても、払戻しを受けることができせん。

また、被相続人の収入により生活をしていた場合における収入口座であった場合には、一時的にせよ生活費に困る状況におちいってしまいます。

 

こうした場合に対応するべく、一定の場合に払い戻しが受けられるよう国が制度を設けました

「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」の制度内容

 

国は「民法(みんぽう)」とよばれる法律を改正し、遺産の分割前における預貯金の払戻しができるようにしました。

民法 第909条の2 (遺産の分割前における預貯金債権の行使)


各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる

この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

 

2つの払戻し制度(家庭裁判所とそれ以外の方法)

 

払戻しを受けられるのは次の2通りがあります。

図表 預貯金の払戻制度

家庭裁判所の判断 家庭裁判所以外
払戻しの流れ 家庭裁判所の審判により、相続預金の「全部」または「一部」を仮に取得したうえで、取引先の金融機関から単独で払い戻しを受ける。 各相続人は、相続預金のうち、口座ごと(定期預金の場合は明細ごと)に以下の計算式で求められる額について は、家庭裁判所の判断を経ずに、金融機関から単独で払戻しを受けることができます。
限定条件 生活費の支払い等の必要性が認められ、
他相続人の利益を侵さないこと
同一の金融機関における払戻しは150万円が上限
払戻しをうけられる額 家庭裁判所が判断した額

計算式

 相続開始時の預金額×1/3×払戻しを求める相続人の法定相続分

 ※相続開始時の預金は、口座ごと、定期預金の場合は明細ごとに計算をおこないます。

必要書類の例

① 家庭裁判所の審判書謄本

印鑑証明書(払戻しを受ける相続人のもの)

① 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本

全相続人の戸籍謄本(または抄本。被相続人との相続関係が分かるもの)
印鑑証明書(払戻しを受ける相続人のもの)


利用時の注意点① 「上限額があり、満額払戻しされるとは限らない」


家庭裁判所においては、その「判断」。

家庭裁判所を利用しない遺産分割をおこなっている場合等は、民法に定める計算式に基づいて算出された金額で、150万円を「上限」とされています。

つまり、家庭裁判所による場合には「判断の余地」があり、
家庭裁判所以外による場合による場合には「計算式」で算出されるため
必ずしも希望の金額の払戻しをうけられるわけではありません。

利用時の注意点② 「必要書類が多く、必要な時までに間に合わない」

 

預貯金の払戻しを受けるためには、金融機関一般的な相続手続において求める必要書類とそう変わりはありません

相続人調査(被相続人の出生から死亡までの戸籍の取り寄せ)は時間がかかることが一般的です。
そのため死亡からまもなく執り行われる葬儀には間に合いません。

 

また、金融機関に書類を提出するものの、その審査に時間がかかることが予想されるため、すみやかな払戻しを受けることが難しいと考えられます。

利用時の注意点③「払戻しされた預貯金の取り扱い」

 

当制度を利用して受けた預金は、払戻しを受けた相続人が取得したものとみなされます
つまり、遺産分割の際に、取得した預貯金を含めて遺産分割を検討することになります。

 

実際の手続き(必要書類)

 

当制度による払戻しを受けるためには、一般的に求められる資料は先述のとおりです。
それに加えて、金融機関が追加で資料を求められる場合があります。

図表 預貯金の払戻制度別の必要書類の例

家庭裁判所の判断により払戻しを受ける場合 家庭裁判所の手続によらず払戻しを受ける場合
必要書類の例

① 家庭裁判所の審判書謄本

印鑑証明書(払戻しを受ける相続人のもの)
① 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等
全相続人の戸籍謄本(または抄本。被相続人との相続関係が分かるもの)
印鑑証明書(払戻しを受ける相続人のもの)

三井住友銀行の場合

 

三井住友銀行では次の資料が必要とされています。

  1. 相続に関する依頼書」(三井住友銀行所定)
  2. 相続貯金の通帳、証書
  3. 被相続人の戸籍謄本等(出生から死亡時までの戸籍原本) ※A
  4. 全相続人の戸籍謄本(または抄本。被相続人との相続関係が分かるもの) ※A
  5. 「4」に代えて「法定相続情報」 ※A
  6. 払戻しを受ける相続人の印鑑登録証明書 ※B

 ※ A 役所で1年以内に交付を受けられたもの

 ※ B 役所で6カ月以内に交付を受けられたもの

参照リンク

三井住友銀行 大阪相続オフィス
電話 0120-011-316(通話料無料・携帯電話・PHSからもご利用いただけます。)
月~金 9:00~17:00 ※土日・祝日および12月31日、1月1日~3日を除く

三井住友銀行│相続に関するご質問│遺産分割前の相続預金の払戻し制度を利用する際に必要となる書類は何ですか?

三菱UFJ銀行の場合

 

三菱UFJ銀行は、全国銀行業協会で案内されている内容に準じた書類が必要になります。
詳しくは同行の「相続オフィス」への事前相談をされるのが良いでしょう。

参照リンク

三菱UFJ銀行 相続オフィス

電話 0120-39-1034 (月~金曜日 9時~16時 ※土日祝日、12/31-1/3を除く)

三菱UFJ銀行│よくある質問│遺産分割前の相続預金の払戻し制度の利用を検討されている場合

「相続預金の払戻し制度」利用についてのまとめ

 

国民の相続時における不利益な場面を取り除くために設けられたのが、遺産分割前の「相続預金の払戻し制度」です。
しかし、払戻しに時間がかかるという点においては使いづらい制度と言えます。


ただ、遺産分割の話合いに長期間かかるような場合には、利用するメリットがあります。

 

しかし、当制度に限らず、遺産整理手続は相続人調査など、一般の方にとって不慣れで、手間のかかる作業が必要です。

図解 遺産承継整理のサポート内容

図解 遺産承継整理のサポート内容



上垣司法書士事務所では、
仕事や日々の生活で忙しい相続人の方に代わって、遺産整理手続を代行しています。

 

預貯金口座の解約など遺産整理手続において、「トラブルをさけたい」「手続をまかせたい」という場合は当事務所までご相談ください。
まずは、相続全体の問題点を整理し、具体的なアドバイスをさせていただきます。

関連コラム

次ページ

「遺産整理」についての解説

相続預貯金、不動産、株式、車両、動産など「相続」を原因として引き継ぐ場合、財産の名義変更や、解約・換価による現金で受領するための手続はとてもわずらわしいものです。これら相続財産を引き継ぐための手続について司法書士が解説いたします。

詳しくはこちら

関連コラム

キーワードからコラムを探す

auカブコム証券SBI証券SMBC日興証券ゴルフ会員権みずほ信託銀行ゆうちょ銀行三井住友信託銀行三井住友銀行三菱UFJモルガン・スタンレー証券三菱UFJ信託銀行三菱UFJ銀行上場株式不動産登記不動産登記法不在者財産管理人代償分割代襲相続住所・氏名の変更登記義務化保佐保佐人保佐監督人保証人保証契約借金催告の抗弁権債務債務引受公正証書公正証書遺言共同担保目録兵庫県再代襲相続再転相続分別の利益利益相反名義変更団体信用生命保険固定資産税評価証明書国土交通省国税庁変更登記大和証券始期付所有権移転仮登記始期付所有権移転登記定資産評価証明書家庭裁判所岩井コスモス証券廃除後見後見人後見監督人意思能力成年後見成年後見制度戸籍所有不動産登録証明制度払戻し抵当権換価換価分割改製原戸籍数次相続有価証券未成年者松井証券株式検索の抗弁権検認楽天証券権利部死因贈与残高証明書法務局法務省法定相続分法定相続情報法改正無料熟慮期間特別代理人特別口座現物分割現金登記事項証明書登記原因証明情報登記識別情報通知登録免許税登録済加入者情報開示請求書相続相続人申告登記相続人調査相続土地国庫帰属制度相続土地国庫帰属法相続対策相続手続相続放棄相続欠格相続登記相続登記の義務化相続登記義務化相続税相続財産調査相続関係図秘密証書遺言空室等対策の推進に関する特別措置法職権登記自筆証書遺言自筆証書遺言保管制度葬儀費用表題部補助補助人補助監督人証券保管振替機構認知症誤記証明書財産管理の管理農地農地法農業委員会連帯保証運輸支局過料遺産分割遺産分割前の相続預金の払戻し制度遺産分割協議遺産分割協議書遺産承継遺産整理遺言執行者遺言書遺言書保管事実証明書遺言検索システム遺贈野村證券鑑定人選任申立限定承認除籍預貯金預金
相続手続コラム「家庭裁判所での限定承認申立を書式付で解説」

相続手続

【詳細記入例あり】限定承認申述申立と、鑑定人選任・換価手…

相続財産を限度として、債務を負担する家庭裁判所の「限定承認」申立について解説しています。相続において負債が資産を上回る場合、相続放棄をすると原則一切相続財産を承継できません。しかし、家業として従前から使用している事業用の動産など、どうしても承継したい財産がある場合に限定承認が利用されています。

詳しくはこちら
未成年者の相続放棄と特別代理人選任申立

相続手続

未成年者における相続放棄手続│相続手続シリーズ 明石市の…

借金が資産を上回るため「相続放棄」をする場合で、親と未成年の子が同時に相続人となる時に、未成年の子に代わって親が相続放棄の手続を代理することは法律上できません。このような場合に利用されるのが家庭裁判所の「特別代理人」選任のための手続です。どうして当手続が必要なのか、どのような手続なのかについて司法書士が解説します。

詳しくはこちら
公正証書遺言の誤記修正の方法についての解説

相続手続

残された公正証書遺言に誤記があった場合の訂正方法│遺産整…

遺言者が亡くなった後に「遺言書」を訂正することは可能でしょうか。公正証書遺言における誤記を発見した際には、公証人から誤記証明書の交付を受けることができる場合があります。このコラムでは、誤記証明書の交付を受けるための手続内容について、司法書士が解説しています。

詳しくはこちら

相続手続を安心して進められるよう

あなたをサポート

相続の有料相談

3,300円・60分

  • 実質無料 ご依頼の場合、相談料を手数料に充当
  • 資料提供 オリジナル相談シートを持ち帰り頂けます

相続問題に関するご相談を有料でお伺いしています。相続に関する状況(資産・負債、相続人など)を整理しながら、あなたが何をすべきか具体的にアドバイスをいたします。

  • 相続手続について知りたい
  • 何から始めるべきか分からない
  • 相続登記の相談をしたい
  • 生前対策の相談をしたい
  • 相続に関する解決と見通しを知りたい
相続相談のご案内

ご予約・お問合せ

  • 秘密厳守
  • 事前予約制
  • 夜間・土日祝の相談対応可

「こんなこと相談できるの?」「こういう問題に対応できますか?」など、お気軽にお問合せください。お問合せに費用は一切かかりませんので、安心してご連絡ください。事前予約で夜間・土日祝日の相談対応も可能です。

不動産の相続に関する解説・司法書士による個別相談のご案内

  • 相続登記手続の流れ
  • 必要書類
  • 注意すべきポイント

不動産の相続登記申請の
フルサポート

詳しい解説はこちら

相続・登記手続に関する法律相談サイト

当ホームページでは、相続手続・不動産登記・商業登記に関する問題を中心に、基礎知識や事例を通して解決のためのポイントを司法書士が解説しています。明石市や加古川市、三木市などの東播磨地域、神戸市にお住いの個人の方や中小企業経営者を中心に数多くの解決サポートをおこなっています。