相続登記の義務化の経緯・背景(令和6年4月1日より実施)
法改正情報
執筆者 司法書士 上垣 直弘
- 兵庫県司法書士会登録番号 第1549号
- 簡易裁判所訴訟代理認定番号 第712178号
日頃、東播磨地域(明石市、加古川市、高砂市、稲美町、播磨町)や淡路市、神戸市にお住まいの個人、中小企業の方から不動産登記手続を中心に年間100件以上のご依頼を受けています。中でも遺産整理手続の依頼は多く、これまで遺産の名義変更や処分、不動産の相続登記を数多く取り扱った実績があります。
1.相続登記とは
相続登記とは、土地や建物の不動産所有者が亡くなった場合に、その名義を相続人に変更する手続のことをいいます。
不動産の所有者は、不動産所在地を管轄する法務局に備付られている登記簿で管理されており、不動産を相続した相続人は管轄法務局に対し手続をおこなうことになります。
現在の民法や不動産登記法という法律では、「相続登記をいつまでにおこなわなければならない」という規定はなく、相続登記をおこなうかどうかはあくまで相続人の意向に任せられている状態でした。
2.相続登記がされないことによる所有者不明土地の増加
所有者不明土地とは、「不動産登記簿により所有者が直ちに判明せず、又は判明しても連絡がつかない土地」のことをいいます。
平成28年度に実施された国土交通省の地籍調査によると、国土における所有者不明土地の割合は約20%にのぼるとされています。
通常、不動産の所有者は登記簿謄本で確認することができますが、何らかの理由で登記簿謄本に現在の正しい所有者が反映されていないケースが増加しています。
特に所有者不明土地のなかで「相続登記の未了」が原因となっているものの割合が約67%、「住所変更登記の未了」が原因となっているものが約32%とされており、相続登記がおこなわれないことが所有者不明土地の主な発生原因と考えられています。(国土交通省)
なぜ相続登記がおこなわれないのでしょうか。
その理由として、次の点が指摘されています。
- 相続登記の申請が義務とされていない。
- 大都市圏への人口集中や核家族化が進んだ現在、特に地方を中心に土地の価値が乏しく、売却も困難である場合には、時間と費用をかけてまで相続登記しようと思わない。
- 相続が発生したあと遺産分割協議をおこなわない間にさらに相続が発生し、権利関係が複雑になることで放置される。
相続登記義務化に関しての一連の情報については、次のコラムで解説しています。
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このコラムでは法務省・法務局の情報をもとに、詳細な制度解説をしています。 - 相続登記の義務化の経緯・背景(令和6年4月1日より実施)
法改正により相続登記が義務化された経緯、背景について解説しています。
3.所有者不明土地が増加することの弊害
相続登記がされない場合、所有者不明土地の所有者を探索するには、その相続人の調査のために戸籍謄本などの収集や、相続人への連絡など、多大な費用と時間が必要となるケースも少なくありません。
そのため、所有者不明土地がある場合、地方公共団体の公共事業のための用地取得や民間の土地取引が、円滑におこなえない可能性があります。
また、所有者不明土地の多くは適切な管理がなされていないないため、雑草などの繁茂による景観の悪化や害虫の発生、土地上の空き家の倒壊など、その土地を含む周辺地域全体の環境の悪化につながる危険性もあります。
4.所有者不明土地の発生予防のための相続登記の義務化
「相続登記がおこなわれていない」ことが所有者不明土地が発生する主な原因であることは先に述べました。
そこで、これらの所有者不明土地の発生を予防するために不動産登記法という法律が改正され、相続登記が義務化(令和6年4月1日施行)されることになりました。
また、相続登記と同じくこれまで義務ではなかった住所および氏名の変更登記が義務化(令和8年4月までに施行予定)されます。
各制度の詳細については、別のコラムで詳細に解説しています。
そちらもご覧ください。
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