相続財産に「保証債務」がある場合の対応方法(相続放棄と債務引受について解説)│相続手続シリーズ 明石市の相続相談専門窓口


相続手続

執筆者 司法書士 上垣 直弘


  • 兵庫県司法書士会登録番号 第1549号
  • 簡易裁判所訴訟代理認定番号 第712178号

日頃、東播磨地域(明石市、加古川市、高砂市、稲美町、播磨町)や淡路市、神戸市にお住まいの個人、中小企業の方から不動産登記手続を中心に年間100件以上のご依頼を受けています。中でも遺産整理手続の依頼は多く、これまで遺産の名義変更や処分、不動産の相続登記を数多く取り扱った実績があります。

相続財産に「保証債務」がある場合の手続

 

まず「相続」とは何かを確認していきましょう。

相続とは、プラスの財産だけではなくマイナスの財産である借金などについても承継します。

そのため、プラスよりもマイナスの財産が多い場合には、負担を背負う形になってしまいます。
よって、相続における財産調査では「マイナスの財産」がいくらあるのかについても調査をおこないます。

 

保証債務を背負う「連帯保証」契約とは

 

「保証債務」とは、法人や個人が金融機関などから借入をした際に、借入人(主債務者)と連帯して返済義務を負うものです。

お金を貸し付けた金融機関などは返済を担保するために、主債務者以外に「人」の面でも保証を求めることがあります。
この保証人のことを「連帯保証人」と呼びます。

この連帯保証人が背負う義務は、主債務者が返済しない/できない場合に、その人に代わって返済する義務です。

返済の義務については、主債務者と何ら変わることはありません。

 

図表 連帯保証人が背負う保証債務(法律関係)

図表 連帯保証人が背負う保証債務(法律関係)

連帯保証契約の書面

 

連帯保証契約の書面の例を見ていきましょう。

なお、契約書の名称については、法律上特に決まっていません。
そのため、契約当事者間で決めることがほとんどです。

契約関係を分かりやすくするために、契約内容を反映した名称で作成されることが一般的ですが、法律関係は名称ではなく、その契約・合意内容によって形成されます。

図表 保証債務の契約書例

保証書


令和元年12月1日

甲(保証人) 住所 兵庫県明石市大久保町大久保●●● 

氏名  松 蔭 太 郎     (印)

乙(債務者) 住所 兵庫県明石市大久保町大久保●●● 

氏名  江井島 花 子     (印)

丙(銀 行) 住所 兵庫県神戸市中央区●●●●●●●       

氏名  株式会社○○○○銀行        (印)

 

甲と丙は、甲丙間の保証取引について、次のとおり合意した。

第1条(保証債務)

甲は、乙の丙に対する以下の債務について、乙と連帯して保証債務を負い、その履行については別途乙が丙に差し入れ、または乙丙間で合意した銀行取引約定書及び本保証書の各状に従う。

 

このように、「連帯して保証債務」を負うという内容を約束する書面を取り交わしています。

 

「保証債務」とは(保証債務が、相続に与えるリスク)

 

相続は、いわばその人の地位を引き継ぎます。
つまり、債務者が滞納するなどした場合には、債権者に対して返済義務を負うことになります。

債権者に対する返済が滞った際、一括して返済を求められることが多くあります。

こうした場合に、次のような主張をおこなうことはできません

 

  • 「先に債務者に請求して欲しい」(催告の抗弁権と言います)
  • 「債務者は返済能力も財産もあるので、そちらから返済してもらうか、

    財産を差し押さえて回収して欲しい」(検索の抗弁権と言います)

  • 「債務者と保証人の人数で割った、半額を返済する」(分別の利益と言います)

 

原則、こうした保証債務は相続により承継するため、債務者と同じ立場で負債を背負っています。
そのため、返済をある日突然求められるリスクがあることを理解しておきましょう。

 

「保証債務」を相続する場合

 

法定相続分で保証債務を負担する(原則)

 

複数の相続人で相続した場合、法定相続分の割合に応じて保証債務を負担することになります。

法定相続分とは、法律(民法)で定められた相続人の相続割合のことです。

なお、配偶者は必ず相続人となり、それ以外の相続人は、① 子、② 直系尊属(亡くなった人の両親、祖父母など血筋が「上」の人)、③ きょうだいの順で、先順位の相続人が居ない場合に、順に相続人となります。

図表 民法で定められた法定相続分(民法900条、900条の2)

相続人が複数人の場合には、頭数で法定相続分を割ったものが各人の相続分となります。

第1順位

配偶者1/2

1/2

第2順位

配偶者2/3

直系尊属1/3

第3順位

配偶者3/4

きょうだい1/4

 

特定の相続人に保証債務を引き受けさせる場合

 

図表 特定の相続人による保証債務の引受

図表 特定の相続人による保証債務の引受

 

先ほどの原則では、相続により法定相続分に応じて各相続人が保証債務を承継するとお伝えしました。

ただ、遺産分割協議などの話合いにより、特定の相続人に保証債務を引き受けさせることを合意することも可能です。

 

しかし、この場合には債権者の合意が必要になります。(民法900条の2

 

抵当権は、土地を担保にいれることですが、物を提供するということで「物的担保」とも呼ばれています。
それに対して、保証人は人を「人的担保」と呼ばれています。

 

人的担保は、その人の「支払い能力」などが債権者にとって重要な判断要素となります。

そのため、特定の相続人が債務引受する場合には、あらためて債権者との合意が必要になります。

 

保証債務の承継をする際の必要書類

 

相続人として、債権者とあらためて保証契約を締結する場合、債権者から次のような書類の提出、作成を求められる場合があります。

 

図表 保証債務の承継にあたっての準備書類など

あらかじめ債権者に確認しておきましょう。

  • 契 約 書 保証書(債権者指定の書式の場合あり)など
  • 添付書類 被相続人との相続関係を証する書類

         被相続人の除戸籍謄本等、相続人の現在戸籍謄本等、法定相続情報証明

  • 契 約 者  債権者と相続人または債務引受した相続人
  • 契約時期 相続人間での協議、債権者との合意が整い次第

 

保証債務を引き継ぎたくない場合

 

保証債務を引き継ぎたくない場合、① 相続放棄、② 限定承認の手続を検討します。

 

相続放棄する場合

 

相続放棄は、被相続人の相続権を放棄することです。

プラス、マイナスの財産や、その地位も放棄することで、初めから相続人でなかったことになります。

 

単に「相続を放棄する」と決めるだけでは足らず、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して、相続放棄の手続をおこなう必要があります。

 

相続放棄の手続の流れ

 

相続放棄をするかどうかの熟慮期間は、ご自身に相続があったことを知ってから3か月です。
この期間を過ぎると、原則として相続放棄をすることはできません

相続は、ご家族・ご親族が亡くなられた時に開始します。
この「ご自身に相続があったことを知ってから」とは、ご自身が被相続人の相続人であることを知った時のことを言います。

例えば、消費者金融などの金融機関は、借り入れをしていた被相続人が死亡した際、その相続人を調査し、相続人に返済の督促をおこないます。

相続人は、マイナスの財産も引き継ぎます。
そのため、こうした相続人への借金の返済を求める書面を発送することは一般的によくおこなわれています。
もし、こうした書面を受け取られたら、早めに司法書士などへご相談されることをお勧めします。

上記の例において、3か月の熟慮期間のスタート(起算点)は「消費者金融からの返済督促の書面を受け取った日」からとなります。

なお、この熟慮期間については、伸長するための手続も制度として用意されています。
ただ、伸長するかどうかは裁判所の判断次第となります。

相続人における相続放棄手続の流れについては、次のページで紹介しています。

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プラスの財産の範囲で、マイナスの財産を相続する(限定承認)


プラスの相続財産の範囲内で、マイナスの財産を相続することができます。
この手続を「限定承認」と言います。

限定承認は家庭裁判所での手続が必要です。
また、相続人全員でおこなう必要があること、税務申告面でも譲渡所得の順確定申告が必要な場合もあるなど、手続としては複雑になりがちです。

限定承認は、手続が複雑であるにも関わらず、相続財産が手元に残らないことが多く、利用されることが少ない制度です。

ただ、相続放棄してしまうと、原則遺産相続を全て手放すことになるため、その中の一部の財産を相続したくても、相続することができません。
こうした場合に、限定承認の手続を選択するメリットがあります。

保証債務がある場合の相続手続(まとめ)

 

保証債務がある場合の相続手続について解説してきました。

上垣司法書士事務所では、相続放棄などについてのサポートをおこなっています。

 

税務申告の絡む手続につきましても、提携税理士と共に対応にあたることも可能です。

相続に関する相談もおこなっておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。

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