相続人調査

相続の範囲を確定させるための必要な手続

相続にあたり必要な準備のひとつ、相続人調査について解説します。相続人調査のために知っておきたい基礎知識、調査の進め方について解説します。

相続人調査は、相続手続を進めるために必要な準備のひとつです。通常、亡くなられた方の出生から死亡までの戸籍謄本などを役所で取寄せ、相続人を確定させます。認知している子が存在していたなど、相続人の知らなかった事実が判明することもあります。そのため、念のため「相続人調査」をおこなっておきましょう。

「相続」とは

「相続」とは、ある人が亡くなったときに、その人が持っていた一切の財産と権利や義務を、特定の人が引き継ぐことをいいます。
法律の世界では、亡くなって相続される人を「被相続人」、相続する人を「相続人」といいます。

相続手続の流れ

相続が発生した場合に、一般的に必要となる手続と期限は以下のとおりとなります。

図表:被相続人の死去後の手続から相続財産の処分までの流れ

相続発生 死亡届/死亡診断書など役所へ各種届出(7日以内)
遺言書の確認 被相続人の自宅/公証役場/他相続人などに「遺言書」がのこされていないか確認
相続人の確定 戸籍などを役所で収集し、相続人の範囲を確定
相続財産の確定 被相続人の資産・負債などを調査しその評価額を調査
相続するか判断 負債が多い場合は家庭裁判所で「相続放棄」手続を検討(相続を知ってから3か月以内)
3か月
遺産分割協議 遺言書が無ければ、相続人全員で相続財産の分け方について話し合いをおこなう
遺産整理手続 話し合いが成立すると、相続人それぞれにおいて不動産の名義変更、預貯金・株式の名義変更や解約、売却手続などをおこなう
不動産売却・登記 司法書士として不動産の任意売却、名義変更などの登記手続をサポートできます
相続税の申告 相続税の申告期限は被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です
10か月

「相続人の範囲」について

相続が発生した場合における、被相続人の財産などを引き継ぐ「相続人」は次のとおりです。

図表:相続人となる人と、相続の割合

相続順位 法定相続人と法定相続分
第1順位
子(直系卑属)がいる場合
配偶者
1/2

1/2(人数で等分)
第2順位
子(直系卑属)がおらず父母など(直系尊属)がいる場合
配偶者
2/3
父母
1/3(人数で等分)
第3順位
子(直系卑属)・父母など(直系卑属)がおらず、兄弟姉妹のみの場合
配偶者
3/4
兄弟姉妹
1/4(人数で等分)

相続人の「順位」と「法定相続分」

相続が発生した場合に、原則として「誰が相続人になるか」また、「どのような割合で相続するか」は民法という法律で定められています。この定めにしたがって相続人となる人を法定相続人、相続する割合を法定相続分といいます。
法定相続人をさらに詳しくみると、①配偶者と②血族相続人(子・直系尊属・兄弟姉妹)とにわけられます。このうち血族相続人には優先順位があり、先順位の血族相続人がいる場合、後順位の血族相続人には相続権はまわってこないことになります。

相続における「配偶者」

被相続人に配偶者がいる場合は、必ず相続人となります。血族相続人がいる場合は、その順位にしたがって血族相続人と一緒に相続することになります。
ここでいう配偶者とは、婚姻届が出されている配偶者のことをいいます。したがって被相続人に内縁の夫や妻がいた場合でも、法律上配偶者とみなされないため相続人となれません。また、離婚した元妻や元夫も相続人となれません。

相続における「子」(第1順位の血族相続人)

第一順位の相続人は被相続人の子です。

この子には、実子だけでなく、養子や非嫡出子(婚姻関係にない男女の間に生まれた子)、離婚して疎遠となった子も含まれます。また、子が被相続人よりも先に亡くなっている場合など相続権を失っている場合でも子に子(孫)がいる場合には、その孫がこの権利を引き継ぎ第一順位となります。同様に孫も先に亡くなっている場合はひ孫が第一順位となり、これらを代襲相続とよびます

配偶者と子が相続人の場合、配偶者2分の1、子2分の1の割合で相続します。

子が複数いる場合など、同順位の相続人どうしの相続分は均等の割合になります。例えば子が3人いる場合、子1人当たりの相続分は6分の1(2分の1×3分の1)となります。

相続における「直系尊属」(第2順位の血族相続人)

第一順位の相続人(子またはその代襲相続人)がいない場合、直系尊属が相続人となります。

直系尊属とは父母や祖父母のことであり、実親か養親かで区別はありません。父母と祖父母が両方健在の場合は、被相続人に近い世代が優先され、父母が相続人となります。

配偶者と直系尊属が相続人の場合、配偶者3分の2、直系尊属3分の1の割合で相続します。

被相続人の父母が両方とも相続人になる場合の相続分は、父母それぞれ6分の1(3分の1×2分の1)となります。また、養親についても実親と同じ相続分があるので、仮に実父、実母、養父、養母が想続人になる場合、親1人当たりの相続分は12分の1(3分の1×4分の1)となります。

相続における「兄弟姉妹」(第3順位の血族相続人)

第一順位の相続人(子またはその代襲者)も、第二順位の相続人(直系尊属)もいない場合、兄弟姉妹が相続人となります。

なお、被相続人が亡くなった時点で、既に兄弟姉妹が亡くなっている場合は、兄弟姉妹の子(被相続人からみると甥または姪)が権利を引き継ぎ相続人となります(代襲相続)。ただし、代襲して相続人となることができるのは、兄弟姉妹の子までで、その次の世代である兄弟姉妹の孫には相続権はまわりません。

配偶者と兄弟姉妹が相続になる場合、配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1の割合で相続します。

兄弟姉妹が2名以上いる場合、4分の1を均等の割合で相続します。ただし、同じ兄弟姉妹でも、被相続人と父母を同じくする兄弟(全血の兄弟)と、片親のみが同じである兄弟(半血の兄弟)とは相続分が異なり、半血の兄弟の相続分は、全血の兄弟の相続分の2分の1となります。

本来の相続人の代わりに相続分を引き継ぐ「代襲相続」とは

図表:被相続人の「孫」が相続人になるケース(代襲相続)

図表:被相続人の「孫」が相続人になるケース(代襲相続)

代襲相続とは、本来であれば相続人になるべき人(被代襲者)が、被相続人が亡くなる前に死亡した場合に、被代襲者の子が代わりに相続分を引き継ぐことをいいます。なお、代襲相続が発生するのは被代襲者の死亡だけではなく、「相続欠格」「相続廃除」により相続権を失った場合も代襲相続の原因となります。

①第一順位である子が被相続人より先に亡くなっている場合

子の子(被相続人からみて孫)が親に代わって相続人となります。
孫も先に亡くなっている場合は、ひ孫が相続人となります(再代襲相続)。ただし、子が養子である場合は注意が必要です。

例えば、養子の子Aが被相続人と養子Bの縁組前に生まれた子であれば、被相続人からみてAは養子の連れ子であり、孫ではないので代襲相続はできません。逆に、養子の子Aが被相続人と養子Bの縁組後に生まれた子であれば、Aは被相続人の孫にあたりますので代襲相続が可能です。

②第三順位である兄弟姉妹が被相続人より先に亡くなっている場合

この場合、兄弟姉妹の子(被相続人の甥、姪)が親に代わって相続人となります。
ただし、代襲相続人となれるのは甥・姪までとなり、その次の世代である兄弟姉妹の孫には相続権はまわりません。

相続権を失う「相続欠格」とは

相続欠格とは、本来であれば相続人になるべき人が、民法に定める相続欠格事由に該当する行為をした場合に、手続なしで相続権をはく奪する制度です。

相続欠格
故意に被相続人や相続について先順位または同順位にある人を死亡させた、あるいは死亡させようとしたために刑罰を受けたこと。
被相続人が殺害されたことを知って、告発・告訴しなかったこと。
詐欺や強迫によって、被相続人による遺言書の作成・撤回・取消・変更をさせたこと、または被相続人がこれらをすることを妨げたこと。
被相続人の相続に関する遺言書に内容を偽造・変造したり、破棄したり、隠したりしたこと。

相続について被相続人の意思を最大限尊重しようとするのが民法の考え方です。これに反するおこないをした人は相続権を失います。

相続権をはく奪する「相続人の廃除」とは

相続人の廃除とは、被相続人の意思によって相続人の相続権をはく奪する制度です。

ただし好き嫌いでやみくもに廃除できるものではなく、次の廃除事由がある場合、廃除の請求を生きている間に(または遺言により)家庭裁判所におこなうことにより可能となります。

相続人の廃除
推定相続人(将来の相続において相続人になりうる人)が被相続人に対して虐待をし、又は重大な侮辱を加えたこと
推定相続人に著しい非行があったこと

なお、相続廃除の対象になる人は、「遺留分のある相続人」となるため、配偶者、子および直系尊属に限られます。遺留分のない兄弟姉妹は対象外です。

「相続放棄」手続とは

相続放棄とは、相続が発生したことを知ってから3カ月以内に家庭裁判所に申立て、許可を得ることによって初めから相続人ではなかったことにする手続です。

原則として相続人は、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産(被相続人の借金など)も相続することになります。
ただし、プラスの財産がほとんど存在せず、多額の借金が残ってしまうような場合に、必ず相続しなければならないとすると相続人には酷なことになります。
そのような場合に、相続放棄をすることにより相続人ではなくなるので、当然ながらプラスの財産もマイナスの財産も相続しません。

また、代襲相続が認められる相続欠格や相続人の廃除の場合と違い、相続放棄した人に子がいたとしても代襲相続は発生しません

実際の「相続放棄手続」の解説

家庭裁判所での相続放棄手続について、司法書士が解説しています。

  • 書式・文例 ・相続放棄手続申述受理申立書の記載方法
  • ポイント解説 ・申立人別の必要書類・手続の流れ

詳しくはこちら

「相続人」の実際の調べ方

相続人は、被相続人の本籍地である市区町村の役所に「戸籍など」を取寄せ調べます。

相続人調査は「戸籍」などを取寄せ

相続人の調査とは、戸籍の内容を調査し、法定相続人を確定させることです

わかりやすくいえば、戸籍の内容を確認しながら、被相続人に隠し子などがいないかを調査していきます。

なぜ相続人調査をする必要があるのかというと、被相続人名義の銀行口座や不動産の相続手続をするためには、遺言書がなければ、法定相続人が法定相続分に応じて相続するか、法定相続人全員による遺産分割協議によって、どのように相続するかを決める必要があります。

つまり、相続・遺産整理手続に関して、法定相続人が誰であるかということを、手続先である金融機関や法務局などに証明しなければ、手続を進められないからです。

関連コラム

被相続人の戸籍(除籍)を取寄せる

被相続人の戸籍謄本は、被相続人の出生時から死亡時までの連続したすべてのものが必要となります。

つまり被相続人が亡くなったことがわかる最新の戸籍謄本だけではなく、その前の結婚前の実家の戸籍、さらにその前、その前と出生時にさかのぼって取得していく必要があります。
また、転籍(本籍を移動すること)をしている場合は、本籍をおいた場所の役所ごとに取得していくことになります。

兄弟姉妹が相続人になる場合は、被相続人だけでなく被相続人の両親の戸籍を、その出生から死亡にいたる全てのものを取得し、父や母を異にする兄弟姉妹がいないかどうかを調査していくことになります。

相続人の戸籍などを取寄せる

相続人については、相続人の現在の戸籍謄本を取得し、相続の発生時点で生存しており、相続権があることを証明する必要があります

また、被相続人より、相続人になるべき人が先に亡くなっている場合(代襲相続)は、被代襲者(先に亡くなった相続人)の出生から死亡にいたるまでの戸籍を取得し、代襲相続人を調査していく必要があります。

相続関係説明図を作成する

相続人調査により法定相続人が確定し、相続関係が明らかになりますが、それを家系図のように図面化したものが相続関係説明図です。

主な提出先としては、法務局(不動産の相続登記)、銀行などの金融機関・証券会社(預貯金の相続手続)、裁判所(遺産分割調停の申立など)です。

図表:相続関係図の作成例

図表:相続関係図の作成例

相続関係説明図の作り方

相続関係説明図の作り方については、被相続人の最後の住所・本籍を記載します。不動産の相続登記に使用する場合は、登記簿に記載されている住所も同じく記載します。

次に、被相続人の氏名、生年月日、死亡日を記載します。

相続人については、住所、氏名、生年月日をそれぞれ記載します。
あとは、関係者を線でつないでいきますが、配偶者間のみ二重線でつなぎます。

なお、ご自分で作成される場合は、エクセルなどのパソコンソフトを利用すると綺麗に作成できますが、手書きでも問題はありません。

「相続人調査」のフルサポート

相続人調査は、多岐にわたる遺産相続手続の根幹となる部分です。一部の相続人を除いた相続手続(遺産分割協議など)は無効になりますので、相続人の調査は正確さが重要です。

当事務所では、被相続人の戸籍の収集、法定相続証明情報の取得など、相続人調査の段階からサポートしますのでお気軽にご相談ください。

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相続財産調査

相続をする「人」を確定するだけではなく、そもそも「相続」をするかどうかの判断をするために被相続人の資産や負債を調査する必要があります。相続財産の範囲、その調べ方などについて解説します。

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