特別代理人選任申立、流れについて解説│相続人の中に親権者と未成年の子どもがいる場合


その他

執筆者 司法書士 上垣 直弘


  • 兵庫県司法書士会登録番号 第1549号
  • 簡易裁判所訴訟代理認定番号 第712178号

日頃、東播磨地域(明石市、加古川市、高砂市、稲美町、播磨町)や淡路市、神戸市にお住まいの個人、中小企業の方から不動産登記手続を中心に年間100件以上のご依頼を受けています。中でも遺産整理手続の依頼は多く、これまで遺産の名義変更や処分、不動産の相続登記を数多く取り扱った実績があります。


遺産分割で被相続人を同じくする親と未成年の子は利益相反する関係の為、子供のために特別代理人を選任する必要が生じるケースがあります。このコラムでは家庭裁判所の特別代理人選任のための手続きについて解説します。

1.特別代理人とは

 

特別代理人選任制度とは、親権者とその未成年の子供の利益が相反する行為をおこなう場合などに 、必要となる家庭裁判所の手続きです。

1-1.利益相反する場合(遺産分割の場面)

 

「利益が相反する行為をおこなう場合」とは、どのような状況のことか説明します。

例えば、夫が死亡して相続が発生した、相続人が配偶者(妻)と長男(未成年の子ども)の場合を事例に考えます。

通常は、未成年の子ども(長男)の親権者(妻)が法定代理人として相続手続きに参加します。

 


しかし、この場合において共同相続人である「妻」と「長男」は利益が相反する関係にあるため、妻は長男の代理人として相続手続きをおこなうことはできません。

仮に、夫の相続財産が100万円のみである場合の法定相続分は、妻2分の1(50万円)、長男2分の1(50万円)となります。

しかし、相続人間での話し合いである遺産分割協議により、妻が80万円を、長男は20万円を取得することになった場合、妻が多く遺産を取得すれば、長男の取り分は減少します。
このように、一方の利益が他方の損失になる関係を「利益相反」の関係と言います。

親権者とその子どもが同時に共同相続人となる場合には、利益相反の関係にあたるため、妻 は子どもの代理人となることはできず、家庭裁判所に子どものために特別代理人選任の申立てをおこなう必要があります。

 



このように、親権者の気まぐれな思いによって、未成年者が一方的に不利益な立場になることがないよう、こうした場合には利害関係のない特別代理人を未成年者のために選任し、遺産分割協議を進めることになります。

なお、妻が家庭裁判所に相続放棄をした場合、「はじめから妻は相続人ではなかった」ことになります。
そのため、相続人ではない妻と長男は利益相反の関係には当たらず、妻は長男の法定代理人となることができます(特別代理人選任申立は不要です)。

 



但し、妻が相続放棄をした場合でも、例えば未成年の長男以外に次男がいる場合、長男・次男双方の代理人となることはできません。

子ども同士で利益相反の関係にあるため、一方の子どもの為に特別代理人選任申立て手続きをおこなう必要があります。
このように複数の子どもがいるケースにおいて、それぞれに特別代理人選任が必要になる場合があることに注意が必要です。

1-2.特別代理人の職務と権限


特別代理人は選任されたのち、遺産分割協議に参加し、必要書類の提出や協議書への署名押印など本来法定代理人がおこなう必要手続きをおこないます。

原則として、特別代理人は家庭裁判所の審判(裁判官の判断)によって決められた行為のみおこなうことができます。
そのため、審判で決められた行為が終了したときに、特別代理人としての任務(業務)は終了します。

なお、特別代理人が遺産分割協議に参加し、協議成立により遺産分割協議書を作成する場合には、特別代理人は署名(例:相続人神戸花子 特別代理人 明石太郎)、実印での押印のうえ、印鑑登録証明書や特別代理人の資格を証明する家庭裁判所の「特別代理人選任審判書」を協議書に添付するなどします。

特別代理人が参加し法的に有効に成立した協議書が作成されることで、この協議書をもって遺産分割協議内容に沿った相続不動産の名義変更(相続登記)や、被相続人名義の預貯金口座の払戻し、株式・証券の名義変更や売却処分の手続きがおこなえるようになります。

1-3.特別代理人になれる人


特別代理人になるには特別な資格は必要ありません。

特別代理人の制度趣旨は「公平な相続の実現」が目的です。
そのため、選任にあたっては「特別代理人と未成年者との利害関係の有無」や「職務が適切におこなえるか(適格性)」などを考慮して判断されます。

なお、特別代理人選任申立の際に、候補者を立てることも可能です。
ただ、裁判所が候補者をそのまま選任するとは限りません。

実務上では、共同相続人となる親権者やその子ども(未成年者)と利害関係のない親族(叔父・叔母・祖父母など)の方を候補者にして申し立てることもあります。

特別代理人候補者を立てないで申立てをした際には、家庭裁判所が選任します。
多くの場合、弁護士、司法書士などの専門家が選任されます。

また、申立時にこうした法律の専門家を候補者として立てることも可能です。
特別代理人候補者が親族で見つからず、知らない専門家が選任されることに不安がある場合、あらかじめ信頼できる専門家に就任依頼をしたうえで申立てすることにより、安心して手続きを進めることができるかもしれません。

 

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2.特別代理人選任申立の手続き


特別代理人選任申立ての手続きについて解説します。

2-1.申立てできる人(申立人)


特別代理人選任の申立てができるのは次の方です。

  • 親権者
  • 利害関係人
    (他共同相続人など法律上の利害関係を有する人)

 

2-2.申立先


未成年者の子どもの住所地を管轄する家庭裁判所に申立てます。

未成年者の住所地(住民票上の住所)を管轄する裁判所は次のリンク先から確認できます。

参照リンク

申立先の管轄先について、次のリンクで確認できます。

 

2-3.申立ての必要書類


親権者である親とその子どもが共同相続人となる場合における、特別代理人選任申立てに必要となる書類は次の通りです。

 

  • 申立書

    参照リンク

    申立書の書き方については、裁判所公式ホームページに記載例があります。

  • 添付資料
    ☑未成年者の子どもの戸籍謄本
      市区町村役所で取得可能な全部事項証明書。
    ☑親権者または未成年後見人の戸籍謄本
      市区町村役所で取得可能な全部事項証明書。
      未成年後見人とは未成年者に対して親権をおこなう人がいない時に、家庭裁判所に申立てて選任される、その未成年の法定代理人となる人です。
    ☑特別代理人候補者の住民票または戸籍附票
      戸籍附票は本籍地のある市区町村役所で取得できる住所を証明する 資料です。
      公的な手続きでは、住民票に代えて提出することがあります。
    ☑利益相反に関する資料
      遺産分割協議書など。
    ☑利害関係を証する資料(利害関係人として申立てする場合)
      利害関係 が分かる戸籍謄本などを添付します。

2-4.申立て手続費用


特別代理人選任申立てにかかる費用は大きく分けて3つです。

 

① 申立費用
② 特別代理人の報酬(候補者を立てず申立した場合)
③ 弁護士・司法書士の報酬(代理人就任を依頼した場合)

① 申立費用


家庭裁判所に申し立てる際に、必ず必要になる費用です。
申立書に貼付する収入印紙800円分(子ども1人につき)、裁判所に納める連絡用の郵便切手です。

連絡用の郵便切手の券種の内訳は申立先の家庭裁判所により異なります。
費用の相場感として数千円程度ですが、申立て前に裁判所に確認しておくと良いでしょう。

 

参照 │ 予納郵券

家庭裁判所により郵券の内容は指定されていますので予め券面額、枚数を確認しておきます。
この予納郵券は、申立時に提出します

② 特別代理人の報酬


特別代理人の候補者を立てずに申立てをした場合、家庭裁判所が特別代理人を選任します。
この場合、この特別代理人への報酬は、本人の財産から支払われます。

特別代理人の報酬額については財産状況や必要となる業務などを見て裁判所が判断するため、その相場は一概にいくらかとは言えません。

なお、申立時に候補者として自薦(自分を候補者とする)の場合でも、報酬を請求する事は可能です。

③ 弁護士・司法書士の報酬


適任の特別代理人候補者が見つからない場合、候補者を立てずに申立てをおこなうことも可能ですが、予め自分自身で探した信頼できる弁護士・司法書士に依頼し、特別代理人選任手続きの候補者として申立てをすることもできます。

この場合、弁護士・司法書士に依頼する費用が別途かかります。
通常、専門家に依頼した場合、申立書作成などの申立てから特別代理人の就任、目的となる代理行為をおこない完了するまでの一連の手続きを任せることができます。

上垣司法書士事務所では、遺産分割に関する問題解決のためのサポートをおこなっています。
特別代理人選任手続きなども含め、ご相談いただけます。
ぜひお気軽に、お電話や当ホームページの受付フォームからメールにてお問い合わせください。

2-5.手続きの流れ


申立てから特別代理人の選任までの手続きの流れは次の通りです。

 

① 必要書類の収集、申立書類の作成


特別代理人の申立てに必要な書類の収集、作成をおこないます。
自分だけで手続きを進める自信がない、負担に感じる場合には司法書士などの専門家に依頼します。

また、遺産分割協議のために特別代理人を選任する場合には、遺産分割協議書案が必要になります。
遺産分割協議は相続人全員が参加しなければ法的に無効となるため、相続人全員を把握し、その範囲を確定しておく必要があります。

② 家庭裁判所に申立て


未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所へ申し立てます。
申立て後、家庭裁判所はその内容を審理し特別代理人を選任するか、選任しないかを判断します。

この際、数週間程度で裁判所から特別代理人候補者に「照会書(回答書)」が届きます。
未成年者との利害関係の有無や、候補者自身の状況(健康状態や経済状況)などについての質問項目が記載されています。

この照会文書について候補者は回答を記載したうえで返送します。

③ 審判(結果の連絡)


一般的に、裁判官の判断の結果(審判)まで約1か月程度の時間がかかります。
審判の内容は、審判書の形で書面にて交付されます。
特別代理人が選任された場合には、この審判書謄本が特別代理人選任の証明書面になります。

 

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3.まとめ


相続手続きの中には、相続税申告や相続放棄などのように期限が設けられているものがあります。

そのため相続発生後、共同相続人の中に未成年者等がいて、特別代理人選任申立てなど遺産分割協議とは別に手続きが必要になることが判明した場合には、期限までに相続手続きを進める必要があるため、段取り良く速やかに行動をおこなう必要があります。

上垣司法書士事務所では、解説した特別代理人選任申立てについても、提出書類の収集から申立書の作成までをサポートしており実績があります。

遺産分割協議を進めるにあたって、面倒な手続きや疎遠な相続人間のやりとりに負担を感じている方は、当事務所まで早めにご相談ください。
申立手続きや遺産分割協議の進め方など具体的に解決方法をアドバイスいたします。
(初回相談は、事前予約、直接面談にてお願いしております。)

まずは気軽に、上垣司法書士事務所までお問い合わせください。

 

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