相続土地国庫帰属制度とは?不要な土地を手放す方法について徹底解説
法改正情報
執筆者 司法書士 上垣 直弘
- 兵庫県司法書士会登録番号 第1549号
- 簡易裁判所訴訟代理認定番号 第712178号
日頃、東播磨地域(明石市、加古川市、高砂市、稲美町、播磨町)や淡路市、神戸市にお住まいの個人、中小企業の方から不動産登記手続を中心に年間100件以上のご依頼を受けています。中でも遺産整理手続の依頼は多く、これまで遺産の名義変更や処分、不動産の相続登記を数多く取り扱った実績があります。
1.相続土地国庫帰属制度とは
令和5年(2023年)4月27日から施行される「相続土地国庫帰属制度」は、相続または遺贈(相続人に対する遺贈に限る)によって取得した土地の所有権を国庫に帰属させる制度です。
この制度の目的は、①所有者不明土地の発生を予防すること、②管理困難な土地の問題に対応することです。
相続不動産が適切に管理されていない土地は所有者不明となり、周辺地域の土地利用に支障をきたすだけでなく、荒廃などにより 危険な状態に陥ることもあります。
相続土地国庫帰属制度の創設によって管理困難な土地を国が引き取ることで、所有者不明土地の発生を予防し、地域のまちづくりや資源の有効活用に貢献することが期待されます。
また、相続土地国庫帰属制度は所有者自身にとってもメリットがあります。
利用価値の低い不要な土地を所有し続けることによる負担や経済的な負担を解消することができます。
相続した土地が自身の生活やビジネスに適さない場合、国に引き渡すことで手間やコストを軽減することができるのです。
そこで、相続人が一定の要件を満たす場合には、土地を手放して国庫に帰属させることが可能となります。
しかし、制度を活用するためには所有者自身が適切な判断を下す必要があります。
相続した土地の利用価値や将来の見通し、管理の負担などを考慮し、国に引き渡すことが最善の選択肢であるかどうかを慎重に検討することが重要です。
2.相続土地国庫帰属制度利用の大きな流れ
相続または相続人に対する遺贈 によって土地の所有権を取得した方は、法務大臣に対して国庫への帰属を申請することができます。
しかし、全ての土地が国庫に帰属できるわけではありません。
所有者は法務大臣に対して帰属の承認を申請し、要件を満たすかどうかの審査を受ける必要があります。
申請があった場合、法務大臣は審査のための調査を行うことができます。
実際には、法務局が土地の状況や管理の負担度を調査し、通常の管理や処分に比べて費用や労力が多くかかる土地であると判断された場合を除いて 、所有権の国庫への帰属を承認します。
承認を受けた相続人は一定の負担金を納付することで土地の所有権が国庫に帰属します。
3.相続土地の国庫帰属を申請できる人
相続土地の国庫帰属を申請できるのは、相続や遺贈によって土地を取得した相続人です。
3-1.制度開始前の土地も対象
相続土地国庫帰属制度の施行前に相続した土地にも適用されます。
今、所有している相続不動産(土地)でも申請が可能です。
3-2.共有不動産(土地)の場合も対象
共有者の場合は、相続や遺贈により共有持分を取得した共有者がいれば、共有者全員で申請することが可能です。
3-3.制度対象外の人
生前贈与や売買などによる土地取得者や法人は申請できません。
4.国庫帰属の対象土地
法律で定められている「国庫に帰属させることができない土地」以外のものが申請の対象となります。
(国庫に帰属させることができない土地の要件は、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第25号)によって定められています。)
なお、具体的な対象となる土地や要件については政令(施行令)によって定められていますので、詳細な情報を確認することが重要です。
制度の利用を検討する場合は、関連法令や公式の情報源を参照し、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
4-1.国庫帰属の申請時点で却下される土地
以下の土地は、国庫帰属の申請時点で却下されます。
☑ 担保権や使用収益権が設定されている土地
☑ 他人の利用が予定されている土地
☑ 土壌汚染されている土地
☑ 土地境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
4-2.審査により国庫帰属が不承認となる土地
申請後の審査で、次の土地に該当すると判断された場合は不承認(国庫に帰属させない)となります。
☑ 土地の管理・処分を阻害する有体物(工作物・車両・樹木など)が地上にある土地
☑ 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
☑ 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
☑ その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
5.相続土地国庫帰属の申請手続き
制度利用の具体的な流れについて解説します。
5-1.事前相談
まず、事前相談からはじめます。
土地の所有者、家族や親族の方は、法務局・地方法務局(本局)の窓口で対面相談や電話相談ができます。
基本的に相談先は、土地の所在する都道府県の法務局・地方法務局の不動産登記部門です。
但し、支局・出張所で相談はできません。
また、土地所在地 の法務局・地方法務局(本局)での相談が難しい場合は、お近くの法務局・地方法務局(本局)で相談が可能です。
事前相談の予約は、法務局手続案内予約サービスを利用します。
なお、1回あたりの相談は時間が限られているため、相続土地国庫帰属相談票や土地の状況に関する資料(登記事項証明書、地図・公図、地積測量図など)や写真など相談資料を事前に準備しておく必要があります。
参照 │ 相続土地国庫帰属制度利用のための事前相談の必要資料
☑ 相続土地国庫帰属相談票
参照リンク(法務省) 相談票様式 ▶ エクセル ▶ PDF
☑ 相談したい土地の状況について(チェックシート)
参照リンク(法務省) チェックシート様式 ▶ Word ▶ PDF
☑ 土地の現況がわかる資料
・登記事項証明書や登記簿謄本
・地図、公図
・地積測量図
・土地の現況を写した写真など
5-2.申請書の作成・準備・提出
承認申請書や土地の情報を明示する図面・写真などの書類を作成し、申請先の法務局に提出します。
提出方法は、法務局の窓口に持参するか、郵送でおこないます。
ご自分で作成する申請書類や、それに添付する資料は次のとおりです。
5-2-1.申請書(申請者が作成)
法務省で申請書の書式と記載例が公開されています。(令和5年4月24日更新) 単独所有の場合と、他の方との共有土地の場合における共同申請の場合の書式が用意されています。
5-2-2.添付書類(必須のもの)
申請書に必須の添付書類で、申請者が作成しなければいけない書面は次のとおりです。
なお、記載例については法務省のホームページで公開されています。
参照 │ 法務省公式 必須添付書面
① 承認申請に係る土地の位置及び範囲を明らかにする図面
② 承認申請に係る土地と当該土地に隣接する土地との境界点を明らかにする写真
③ 承認申請に係る土地の形状を明らかにする写真
※ ①~③ 記載例 ▶ 法務省公式HP
④ 印鑑証明書(市区町村作成、申請者のもの)
5-2-3.添付書類(場合により必要なもの)
相続内容に応じて追加で書類提出を求められることがあります。
① 遺贈によって土地を取得した相続人が申請をおこなう場合、② 承認申請者と所有権登記名義人が異なる場合には、それらの事情を補足する資料の提出が求められます。
そのため、事前相談時に必要書類をしっかり確認しておくと良いでしょう。
5-2-4.審査手数料
審査手数料は、土地一筆当たり14,000円です。
申請書に、審査対象となる土地の筆数に応じた収入印紙を貼って提出します。
申請後に取下げ、申請時点で却下や審査後に不承認となった場合にも返還されません。
そのため対象土地かどうかを含め、しっかり事前相談をしておきましょう。
5-3.法務局担当官による書面調査・実地調査
法務局は、提出された書面について審査をおこない、審査対象である土地の実地調査をおこないます。
対象の土地において案内がないと分かりづらい場合、申請者などに同行依頼の可能性もあります。
5-4.承認後の負担金の納付
審査の結果、国が土地を引き取れると判断した場合は、法務大臣から承認の通知とともに負担金の納付を求める通知が届きます。
申請者は納付通知に記載されている負担金額を30日以内に納付しなければなりません。
負担金が納付されると土地の所有権が国に移転し、所有権移転の登記は国が行います。
5-4-1.負担金額
負担金額は、承認通知とともに納入告知書にその金額が記載されています。
負担金額についての具体的な計算方法は、相続土地国庫帰属法施行令で定められています。
これは、国有地の土地の種目ごとに要する標準的な10年分の費用をもとに算定されています。
参照│国庫帰属承認時の負担金額の例 | |
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宅地 | 原則として、面積にかかわらず、20万円 ※ 一部の市街地(都市計画法の市街化区域又は用途地域が指定されている地域)の宅地は、面積に応じて算定 |
田、畑 | 原則として、面積にかかわらず、20万円 ※ 一部の市街地(都市計画法の市街化区域又は用途地域が指定されている地域)、農用地区域の田、畑は、面積に応じて算定 |
森林 | ※ 面積に応じ算定 |
その他 ※雑種地、原野等 |
面積にかかわらず、20万円 |
※ 特定条件に該当する土地の詳細は、法務省のホームページでご確認いただけます。
▶ 法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」
※ 特定条件に該当する場合の負担金額は次の計算シートにより計算します。
▶ 法務省│負担金額の自動計算シート(Excel)
算出された負担金は、日本銀行や歳入代理店である銀行・信用金庫・信用組合などで納めます。
法務局の窓口で現金にて負担金を納めることはできません。
期限内に負担金が納付されない場合、承認の効果は失効するので注意が必要です。
承認が失効した場合、審査をおこなった土地について国庫に帰属させたい場合には最初から申請のし直しが必要になります。
6.相続不動産を相続放棄手続きで所有権を手放せるか
相続土地国庫帰属制度で承認を受けることができれば、管理費用などの負担から逃れられます。
しかし、国庫帰属の対象とならない土地の場合、ずっと所有しなければならないのでしょうか。
ご自身に相続があったことを知ってから3か月以内に、家庭裁判所に対して相続放棄手続きをおこなうことで、基本的には「相続人ではなかった」こととなり、一切の資産・負債などを相続しないこととなります。
しかし、相続放棄後も相続不動産については、次順位の相続人や、家庭裁判所で選任された相続財産清算人に相続財産の管理を引き継ぐまで保存義務を負うことがあります。
相続放棄をした時に、現に相続財産を占有している人は、滅失したり損傷を与えたりしないように、自己の財産と同一程度の保存義務を負うことになります。
つまり、第三者に損害を与えることがあれば、賠償責任を追及されるおそれがあるため注意が必要です。
なお、遠方に住んでいて相続不動産を把握しておらず、占有もしていない人は、この保存義務を負わないことがあります。
くわしくは次のコラムで解説しています。
参照コラム
- 相続放棄後の相続放棄者の管理義務とは
相続放棄後も財産の管理義務が残る場合があります。その内容について、司法書士が解説します。
6.まとめ
相続した土地を手放す方法は次の4つの方法があります。
相続土地を手放す方法の比較(各方法の違いとメリット・デメリット) | |
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相続土地国庫帰属制度 |
メリット
デメリット
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相続放棄 |
メリット
デメリット
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第三者(国・地方公共団体等)への寄附 |
メリット
デメリット
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売却 |
メリット
デメリット
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相続土地国庫帰属制度は、相続放棄と異なり「管理に手間がかかる土地を手放すこと」ができる点が大きなメリットです。
一方で、国庫帰属の対象となるのは限られた条件下の土地であり、審査には費用や手続き負担が大きいと言えます。
相続放棄は一切の相続をしないことになるため、負債のみならず資産も手放さなければなりません。
各種手続きには、メリット・デメリットがあります。
相続において負担の大きい不動産は、早めに専門家までご相談されると良いでしょう。
この相続土地国庫帰属制度において、弁護士、司法書士、行政書士は申請書作成の代行をおこなうことができます。
上垣司法書士事務所では、相続不動産に関する名義変更登記などをサポートしています。
相続手続き、相続放棄についてのご相談も対応しています。
ぜひお気軽にお問い合わせください。