成年後見制度を解説│認知症の親やきょうだいの財産管理・処分の問題
その他
執筆者 司法書士 上垣 直弘
- 兵庫県司法書士会登録番号 第1549号
- 簡易裁判所訴訟代理認定番号 第712178号
日頃、東播磨地域(明石市、加古川市、高砂市、稲美町、播磨町)や淡路市、神戸市にお住まいの個人、中小企業の方から不動産登記手続を中心に年間100件以上のご依頼を受けています。中でも遺産整理手続の依頼は多く、これまで遺産の名義変更や処分、不動産の相続登記を数多く取り扱った実績があります。
目次
- 1.認知症の方をサポートする成年後見制度
- 1-1.成年後見制度とは?
- 1-2.成年後見制度のメリット
- 2.成年後見制度は3つの種類がある
- 2-1.後見
- 2-2.保佐(中程度の認知症)
- 2-3.補助(軽度の認知症)
- 3.成年後見制度の費用
- 3-1.申立準備段階でかかる費用
- 3-2.申立時にかかる費用
- 3-3.申立後にかかる費用
- 4.成年後見制度の手続方法と流れ
- 4-1.成年後見制度の申立先
- 4-2.成年後見制度の必要書類
- 4-3.成年後見制度の流れ
- 5.成年後見制度利用の注意点
- 6.認知症の方を保護・支援する制度
- 6-1.任意後見制度(判断能力がある場合)
- 6-2.家族・民事信託制度(判断能力がある場合)
- 6-3.行政による支援(日常生活自立支援など)
- 7.まとめ
1.認知症の方をサポートする成年後見制度
認知症や精神障害、知的障害により、判断能力が低下したり失われたりした方を支援する仕組みが「成年後見制度」です。
家庭裁判所の続きにより、財産管理などをサポートする人が選ばれます。
財産管理や入所施設との契約締結など実生活に必要な身上保護を受けて、安心して生活を送るための支援を受けます。
直接、財産管理や身上介護をおこなう「後見人」と、
必要に応じて後見人 の活動内容を監督する「後見監督人」が家庭裁判所に選任されます。
1-1.成年後見制度とは?
成年後見制度でできることは次のようなものがあります。
☑ 介護施設、病院の入院手続き
☑ 保険料・税金の支払い
☑ 定期的な訪問による状況確認
☑ 遺産分割協議などの相続手続き
☑ 不動産の売却
成年後見制度利用によりできないことは、次の取りです。
実際に身の回りの世話をするのではなく、実生活上の各種支援が受けられるように手配してもらうための制度が成年後見です。
利用を検討するにあたって、支援を受けるご本人やご家族さまにとってのメリット、デメリットについて、まずは知っておきましょう。
1-2.成年後見制度のメリット
成年後見制度利用のメリットは次のとおりです。
・ 親族による財産使い込みの防止
・ 本人の散財、誤った法律行為の防止(誤った法律行為の取り消し)
2 身上監護が受けられる
・ 入所/入院や医療、福祉サービス(介護)の手続の契約
・ 保険料、税金の支払いをサポート
3.遺産分割や不動産処分のサポート
・ 遺産分割の話し合いのサポート
・ 土地、建物の売却処分のサポート
後見人は家庭裁判所などの監督を受けます。
例えば、預貯金の収支や、活動内容などを定期的に書面により報告をおこないます。
また、権限外の行為については、事前に裁判所の許可をもらう必要があります。
後見人の不正や暴走を防ぐための制度の枠組みがあり、適切な財産管理・身上監護を受けられることが期待できます。
財産管理の具体的例は、預貯金 / 不動産などの管理(自宅の修繕や売却処分)、遺産分割協議や相続手続きへの参加、税金・保険料、公共料金の支払いなどがあります。
また、身上監護の具体例としては、介護施設の入居契約やその支払い、介護やリハビリを受けるための契約手続きなど、判断能力が衰えた本人に代わっておこないます。
なお、後見人は、本人がおこなった法律行為を取り消すことができます。
不要で過大な物品の購入(売買契約)、銀行・証券会社による金融商品の強引な販売行為による購入の取り消しなどが考えられます。
判断能力の低下につけこんだ詐欺的・不利益な行為から守ることができます。
なお、親族による財産使い込みの心配がある場合にも、後見制度が利用されることがあります。
兄弟姉妹が 両親の通帳から預貯金を勝手に引き出し たり、勝手に名義変更し処分されたりしないか心配な場合には、後見制度利用により後見人等が財産管理をおこなうことになるため、一定の予防効果が期待できます。
1-3.成年後見制度のデメリット
成年後見制度のデメリットは次の5つです。
・ 医師の診断書等必要書類の準備が煩雑
2.申立てに費用がかかる
・ 医師の鑑定10万円程度、登記手数料などの負担がある
・ 弁護士、司法書士に依頼した場合に費用がかかる
・ 成年後見人に報酬支払いが発生する
3.途中でやめることができない
・ 申立手続中の取下げには、家庭裁判所の許可が必要
(自由に取下げできない)
・ 手続き開始後、本人が亡くなるまでやめられない
(障害や症状の回復が医師の診断書で確認できれば裁判所に取消が認められます)
4.財産の利用・処分などに制限
・ 成年後見人が財産管理をおこなうため制限を受ける
・ 相続税対策のための生前贈与が難しくなる
5.成年後見人とのトラブル
・ 後見人による不祥事の事例もある
(後見事務をしない、仕事内容が不十分/本人の財産使い込みなど)
・ 後見人に親族選任のケースで、疑心暗鬼になった親族と揉める可能性がある
後見制度の利用にあたって、申立準備段階から書類収集など手間がかかることがデメリットと言えます。
成年後見制度利用のための必要書類の多さや煩雑の程度を予め確認するには、以下のページが参考になります。
また、手続きを始めた以上、基本的に自由に取下げや成年後見人等の解任はできません。
手続開始後、財産管理の権限は 後見人に移行します。
そのため財産管理の柔軟性は低くなります。
また、後見人に親族が選ばれることもあります。
親族が後見人が財産を囲い込んでいるように見えてしまうため、後見人以外の親族とトラブルになることがあります。
2.成年後見制度は3つの種類がある
成年後見制度は、判断能力の低下等の程度によって3つの類型に分かれています。
そのため、本人の障害や症状 をふまえて、生活上で必要となるサポートを検討して、適切な制度を利用しましょう。
2-1.後見
成年後見制度 「後見」 | |
---|---|
対象者 | 事理を弁識する能力を欠く常況 |
選任される人 |
後見人、後見監督人 (後見人の監督、家庭裁判所が必要と認める時に選任 ) |
権限の範囲 |
財産管理、および財産に関するすべての法律行為について同意、取消、代理 |
認知症、知的障害、精神障害により、物事の適切な判断が常にできない状態にある方を支援するための制度です。
3つの類型の中では、本人の認知症などの状態 が一番重いものです。
認知症などの程度にもよりますが、実生活上で手続きや契約をおこなうことに支障がある場合、基本的には後見を選択します。
後見人の権限は広範囲にわたり、後見人の事務次第で本人の権利侵害も大きくなる可能性があります。
そのため、後見人の事務を監督するために、家庭裁判所は後見監督人を選任することがあります。
また、裁判所は後見人に対して、報告書や財産目録の提出を求めたり、後見事務や財産状況の調査などをおこなうことで、適切に本人をサポートするよう監督をおこないます。
2-2.保佐(中程度の認知症)
成年後見制度 「保佐」 | |
---|---|
対象者 | 事理を弁識する能力が著しく不十分な常況にある方 |
選任される人 |
保佐人、保佐監督人 (保佐人の監督、家庭裁判所が必要と認める時に選任) |
権限の範囲 |
特定の法律行為に関する同意権と取消権 、必要に応じて代理権 |
保佐人は、物事の理解が著しく不十分な状態にある方をサポートします。
財産に関わる特定の法律行為を本人がおこなう場合には、保佐人の同意が必要です。
保佐人は同意なく本人がおこなった行為を、本人の不利益にとなる行為であった場合に取り消し、特に問題となる行為でもなければ後から同意(追認)します。
この保佐人の事務を監督させるために、後見同様に裁判所は保佐監督人を選任することがあります。
2-3.補助(軽度の認知症)
成年後見制度 「補助」 | |
---|---|
対象者 | 事理を弁識する能力が不十分な常況にある方 |
選任される人 |
補助人、補助監督人 (補助人の監督、家庭裁判所が必要と認める時に選任) |
権限の範囲 |
申立書に記載した法律行為の中で、家庭裁判所が認めた行為 |
成年後見制度上で一番軽い類型です。
日常における重要な手続きや契約をひとりで決めるには、物事の理解が不十分な常況にある方に対する支援制度です。
申立て時点で必要となる支援の範囲を、申立書に記載して、裁判所がその記載された中の法律行為で必要と判断した法律行為のみを補助人がおこないます。
補助との違いは、補助人の事務が裁判所の定める行為に限定されることです。
また、補助人がおこなう事務を監督するために、家庭裁判所は補助監督人を選任する場合があります。
補助監督人には、本人と利害関係のない方が選任されます。
補助人や本人と身近な関係にある人が選任されてしまうと、適切に事務を監督できなくなり、本人に不利益が生じるリスクがあるためです。
3.成年後見制度の費用
成年後見制度の利用でかかる費用は次の通りです。
3-1.申立準備段階でかかる費用
主に申立書に添付する必要書類を集めるためにかかる費用です。
本人の所有財産の内容により異なってきますが、おおよそ1万数千円前後~の費用がかかることになります。
参照 │ 成年後見申立の必要書類と費用の一覧
種類 | 取り寄せ先 | 内 容 | 費 用 |
---|---|---|---|
戸籍謄本 (全部事項証明書) |
市区町村役所 |
本人、申立人の戸籍謄本。 本籍地のある市区町村役所の窓口、又は郵送で交付を受けます。 |
450円/通 |
住民票 (又は戸籍の附票) |
市区町村役所 |
本人の住所が分かる住民票又は戸籍の附票。 交付手数料は市区町村によって異なります。 また、後見人等候補者 を立てて申立てする場合には、その候補者の住民票が必要になります。 |
数百円/通 |
登記されていないことの証明書 | 法務局 |
本人が成年被後見人として登録(登記)されていないことを証明する書類です。 参照リンク東京家庭裁判所 「登記されていないことの証明申請について」
|
300円/通 |
医師の診断書 | 医療機関 |
診断書作成費用は医療機関により異なりますが、一般的には5000円~1万円程度のことが多いです。 なお、保険の適用は受けられず、全額自己負担です。 |
1万円程度 |
不動産の登記簿謄本 | 法務局 | 本人に所有財産がある場合に必要です。登記簿謄本(全部事項証明書)は最寄りの法務局窓口、又はインターネットによる郵送取得も可能です。 | 480円~600円/通 ※1通が50枚を超える場合、50枚ごとに50円の追加費用 |
3-2.申立時にかかる費用
申立書に貼る収入印紙や郵便切手など裁判所に納める費用が必要になります。
費 目 | 内 容 | 費 用 |
---|---|---|
申立て手数料 | 申立書に収入印紙を貼って提出します。 保佐、補助の類型で申し立てる場合で、同意権、代理権の付与を求める場合には追加となります。 |
800円~ |
登記手数料 | 収入印紙2,600円分を納めます。 | 2,600円 |
郵便切手 |
連絡用に使用する郵便切手は申立先の裁判所によって券種(金額)が異なります。
なお、保佐・補助申立の際は、いずれも4,600円分となっています。 それに対して、大阪家庭裁判所では3,990円分(内訳 500円×2枚、100円×15枚、84円×10枚、63円×5枚、20円×10枚、10円×10枚、5円×5枚、1円×10枚)となっています。 |
数千円 |
3-3.申立後にかかる費用
申立て後にかかる費用は次の通りです。
申立手続の中でかかるもの、後見開始後にかかるものに大きく分かれます。
なお、後見については基本的に本人死亡までやめることができません。
そのため、後見人等の報酬については継続する限りかかるものです。
費 目 | 内 容 | 費 用 |
---|---|---|
鑑定費用 |
医師による本人の判断能力の程度を医学的に判定するために鑑定料相当額を納めます。 なお、後見を受ける本人の負担とする審判があった場合には、本人の財産から支払うことができます。 |
10万円~20万円程度 |
後見人等の報酬 |
後見人、後見監督人から報酬を求める申立があった場合に、裁判所が審判の形で決定します。 しかし、管理すべき財産が高額な場合や、後見事務で特別困難な事情があった場合には、増額されることがあります。 参照リンク東京家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」より転載 成年後見人について司法書士など専門職が選任された場合には「通常の後見事務を行った場合の報酬(これを「基本報酬」と呼びます。)のめやすとなる額は,月額2万円」「管理財産額(預貯金及び有価証券等の流動資産の合計額)が高額な場合には,財産管理事務が複雑,困難になる場合が多いので,管理財産額が1000万円を超え5000万円以下の場合には基本報酬額を月額3万円~4万円,管理財産額が5000万円を超える場合には基本報酬額を月額5万円~6万円」
|
2万円程度/月~ |
4.成年後見制度の手続方法と流れ
家庭裁判所の後見申立の流れについて解説します。
4-1.成年後見制度の申立先
成年後見の申立先は、後見人等による支援を受ける本人が実際に生活している場所を管轄する家庭裁判所です。
住民票上の住所ではありません。
例えば、大阪市内の介護施設に入所しているものの、住民票がある兵庫県から異動していない場合は「大阪市」を管轄する「大阪家庭裁判所」が申立先です。
4-2.成年後見制度の必要書類
申立書と必要書類を準備します。
必要書類は「費用」の箇所でも説明しましたが、次の書類の提出が必要です。
下記以外に、裁判所に追加提出を求められることもあります。
▽ 参照 成年後見申立の必要書類の例
収入印紙(申立手数料用、登記用)/郵便切手(裁判所納付) / 鑑定費用の準備(10万円~) / 戸籍謄本(全部事項証明書、本人:成年被後見人) / 住民票(又は戸籍附票、本人及び後見人等候補者分) / 申立書(後見開始等開始申立書) / 申立事情説明書 / 親族関係図 / 親族の意見書 / 後見人等候補者事情説明書 / 後見登記されていないことの証明書(本人) / 医師の診断書 / 本人情報シート / 本人の財産目録(預貯金通帳写し、有価証券の残高証明書、所有不動産の登記事項証明書、未登記の所有不動産の固定資産評価証明書、負債に関するローン契約書等写し、遺産分割未了の相続財産に関する資料など) / 本人の収支予定表(年金額決定通知書、給与明細書、確定申告書、家賃、地代等の領収書、施設利用料、入院費、納税証明書、国民健康保険料等の決定通知書など) / 本人の健康状態に関する資料(介護保険被保険者証、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、身体障害者手帳などの写し)/
申立書のひな形は、各家庭裁判所で用意されていることが多いです。
家庭裁判所のホームページ上でも書式のダウンロードが可能な場合もあります。
まずは、申立書の書式や申立てにあたっての注意事項は、説明書などを読んで確認し、不明点は裁判所に確認するのが良いでしょう。
次の裁判所公式ホームページから、成年後見制度の申立書式をダウンロードすることができます。
参照リンク
成年後見制度の3類型(後見・保佐・補助)の申立書(ダウンロード)まとめ
札幌家庭裁判所
申立て等で使う書式例(1 後見・保佐・補助開始の申立て>4 書式集)
東京家庭裁判所
後見・保佐・補助開始申立セット(書式)
名古屋家庭裁判所
成年後見・保佐・補助の各開始の申立てをお考えの方へ(3 申立てに必要な書式)
大阪家庭裁判所
後見等開始申立てをお考えの方へ(◎申立書式等ダウンロード(成年後見・保佐・補助開始))
神戸家庭裁判所
成年後見等申立セット
広島家庭裁判所
窓口でお渡しする申立てに必要な書式等
福岡家庭裁判所
申立書等の書式
4-3.成年後見制度の流れ
成年後見制度の大きな流れは次の通りです。
なお、申立後から成年後見人が選任され後見が開始されるまで、早ければ1か月~2か月程度、長くても4か月以内です。
参照 成年後見制度の流れ
【成年後見制度の利用すべきかの相談】
司法書士 / 公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート(無料電話相談あり) / 弁護士 /
法テラス / 弁護士会 / 市区町村役所の窓口(自治体)/社会福祉協議会 / 地域包括支援センター /
相談支援専門員 / 権利擁護支援センター / など
紹介 「 公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート 」 とは?
全国の司法書士によって設立された、専門家による後見人団体です。全国都道府県に支部があり、成年後見制度についての無料相談などをおこなっています。
【手続き自体についての相談】
全国の家庭裁判所
▼
申立書、必要書類、申立時に必要な手数料を用意し、管轄の家庭裁判所に申立てます。
▼
裁判所から事情のお尋ね、調査等
▼
最終的には家庭裁判所が適切な後見人を選任します。
あなたが後見人候補者を立てたとしても、必ずしも選任されるわけではありません。
▼
成年後見人は選任後1か月以内に本人の財産状況を確認し、財産目録や家計収支予定表を作成し、家庭裁判所に提出します。
その後は、原則少なくとも年1回、報告書を提出します。
5.成年後見制度利用の注意点
本人が認知症になった場合、財産管理や身上監護を成年後見人に依頼することは可能です。
ただ、必ず成年後見人をつけるわけではありません。
成年後見人の選任のための手続き、選任後の後見人への報酬など費用がかかるため後見制度を利用するべきかを検討する必要があります。
なお、認知症になった場合の財産管理、身上監護などのサポートは成年後見制度だけではありません。
次に、成年後見制度以外による認知症の方をサポートするための制度について解説します。
6.認知症の方を保護・支援する制度
認知症や・精神障害・知的障害がある方を支援するための制度は次のものがあります。
6-1.任意後見制度(判断能力がある場合)
任意後見制度は、事理弁識能力が衰える前に、財産管理や療養監護に関する事務などの内容を、ご本人が選んだ後見人に依頼しておくものです。
成年後見制度とは異なり、予め信頼できる方を選んでおくことができます。
ご自分で選んだ、という意味で任意後見人と言います。
(成年後見制度は法律で定めることから、法定後見制度という事があります。)
成年後見制度利用時に、成年後見人候補者を立てることは可能です。
しかし、最終的には本人にとって最適な後見人を裁判所が判断し選任します。
そのため、見ず知らずの後見人にお金を管理される、身上監護のサポートを受けるのが不安な場合には、ご自身で信頼できる親族などに任意後見人を頼むのも一つの考え方です。
任意後見制度の利用のためには、まず任意後見人となる方と「契約」を結ぶ必要があります(任意後見契約書面は、法律により公証役場で公正証書を作成することになっていることに注意が必要です。)。
しかし、既に認知症となっている場合、法律上有効に契約を締結するための「意思能力」がご本人にはないため任意後見制度を利用することはできません。
任意後見制度と法定後見制度(後見)の違いは次の通りです。
法定後見制度(成年後見制度) | 任意後見制度 | |
---|---|---|
手続のタイミング | 認知症・精神障害・知的障害等、判断能力を欠く常況になった時 | 判断能力がある時 |
支援してくれる人 | ・成年後見人 裁判所が判断 |
・任意後見人 将来に備えて自分で選べる |
家庭裁判所に申立てできる人 | ・本人、配偶者、4親等内の親族、成年後見人等、任意後見受任者、任意後見人、成年後見監督人等、市町村長、検察官。 ・家庭裁判所に成年後見等開始申立(後見)をおこないます。 |
・本人(任意後見契約の本人) 、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者。 ・任意後見契約にもとづいて、本人の判断能力が不十分な常況となった時に、家庭裁判所に任意後見監督人選任申立をおこないます。 |
支援する人の権限の範囲 | ・財産管理、身上監護 | ・任意後見契約の範囲 |
支援する人の監督者 | ・裁判所が必要と認めた際に、後見監督人を選任される | ・裁判所は必ず任意後見監督人を 選任する |
6-2.家族・民事信託制度(判断能力がある場合)
ご本人が元気なうちに、家族に財産管理を任せることで資産を積極的に活用することができます。
将来、ご本人が認知症になり判断能力を失ったとしても、信託内容にしたがって財産の管理処分をおこなうことができます。
成年後見制度の場合、後見人は財産管理をおこなうことはできますが、資産運用などの積極的活用や、生前贈与など相続税対策などをおこなうことができません。
しかし、家族信託を利用することで、成年後見制度のデメリットをカバーすることができます。
ただ、家族信託は「財産管理」のみであり、身上介護(介護サービスや施設入所のための契約など)はおこなうことはできません。
そのため、身上介護をカバーするためには、成年後見制度 や任意後見制度との併用することが考えられます。
6-3.行政による支援(日常生活自立支援など)
都道府県・指定都市社会福祉協議会がおこなう、認知症の方が日常生活を送るうえで問題となる「福祉サービス利用時の手続き、契約」「預金払い戻し、預入、解約」「定期的な訪問」などの支援を利用するのも一つの方法です。
参照リンク
7.まとめ
認知症の方のための支援制度である成年後見について解説しました。
認知症の方の支援制度は、成年後見制度以外にも家族信託や、実生活上のサポートなど様々です。
支援のための目的や費用などに照らして、何がどこまで必要かをしっかり考えることが大切です。
上垣司法書士事務所では、相続人全員が参加しておこなわなければならない遺産分割協議において、相続人の中に認知症の方がいる場合に、成年後見制度申立ての代行をおこなっています。
また終活のひとつとして、遺言書作成や不動産売却などの相続相談も対応しております。
生前対策についても当事務所にご相談ください。
相続相談において、ご希望をふまえて、最適な解決策のご提案、ご不安・ご心配な点についてのアドバイスもさせていただきます。
ぜひお気軽に当事務所までお問い合わせください。