法務省・法務局公式情報をチェック!相続登記義務化の最新情報
法改正情報
執筆者 司法書士 上垣 直弘
- 兵庫県司法書士会登録番号 第1549号
- 簡易裁判所訴訟代理認定番号 第712178号
日頃、東播磨地域(明石市、加古川市、高砂市、稲美町、播磨町)や淡路市、神戸市にお住まいの個人、中小企業の方から不動産登記手続を中心に年間100件以上のご依頼を受けています。中でも遺産整理手続の依頼は多く、これまで遺産の名義変更や処分、不動産の相続登記を数多く取り扱った実績があります。
所有者不明の土地が原因で、公共事業や民間取引・利用の妨げになっていることもあり、相続登記の義務化、所有者不明不動産の管理制度の整備などを進めています。
このコラムでは、こうした相続登記の義務化にあたっての最新情報を解説します。
1.民法等一部改正
私人間の権利・義務を定めた法律である「民法(みんぽう)」が改正されました。
この改正により、次の制度が設けられました。
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所有者不明、管理がなされていない土地/建物の管理制度
(改正後の民法264条の2~264条の7)
- 共有者が不明の不動産における共有関係解消の制度
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ライフライン設置のための所有者不明の隣地利用ができる仕組み
(改正後の民法213条の2、同条の3)
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遺産分割が長期間放置されている場合の対応
(改正後の民法904条の3:新設)
1-1.所有者不明、管理がなされていない土地/建物の管理制度(令和5年4月1日施行)
現在、相続人が相続放棄をおこなうなど、所有者が不在となった財産を管理するため、裁判所から「相続財産管理人」が選任され、財産の全てにわたり管理をおこなう制度があります。
今回、この財産管理制度が見直され、所有者不明の土地・建物について管理人を選任することができるようになりました。
相続財産「すべて」ではなく、不動産に特化した財産管理をおこなう、という点で新しい制度と言えます。
管理人は、裁判所の許可があれば不動産を売却することも可能です。
これにより、所有者不明の土地・建物について有効な利用が期待されています。
1-2.きちんと管理されていない土地・建物の管理制度(令和5年4月1日施行)
所有者である相続人が分かっているものの、不動産の適切な管理がされず、他人の権利が侵害される可能性がある場合には、現在の民法で定められている「相続財産管理人」制度では対応ができませんでした。
そこで、今回の民法改正により、所有者が判明しているものの、土地・建物の管理をおこなわず、放置しているような場合には「管理人」を選任することができるようになりました。
1-3.ライフライン設置のための所有者不明の隣地利用ができる仕組み(令和5年4月1日施行)
従前の民法において、自己所有以外の土地で四方を囲まれている場合に、その他人の土地を通行できる権利(「囲繞地通行権(いににょうちつうこうけん)」)などの規定はあります。
しかし、水道・ガス・電話・インターネットといったライフラインを引き込むために他人の土地を利用するための規定はありませんでした。
今回の民法改正により、ライフラインの継続的な供給を受けることができない場合は、① その供給を受けるために「必要な範囲」で他人の土地に設備を設置し、② 他人が所有する設備を使用することができるようになりました。
設置は他の土地を使用させてもらうことになるため、他の土地の損害が最も少なくなるよう配慮する必要があります。
また、設備の設置や他の土地の設備を利用する場合には、土地の所有者や使用者に対して事前に通知しなければなりません。
1-4.共有者が不明の不動産における共有関係解消の制度(令和5年4月1日施行)
改正される前の民法において、複数の所有者で共有されている不動産については「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用ができる」ものとされていました。
しかし、行方不明の共有者がいるような場合、共有している不動産の管理・処分について、共有者間で方向性を決めることもできません。
そのため、民法を改正し、裁判手続を利用することで、共有物の変更や管理などをおこなえるようにしました。
1-5.遺産分割が長期間放置されている場合の寄与分・特別受益を主張できる期間の制限
亡くなられたご家族への介護など貢献度を相続に反映する「寄与分(きよぶん)」や、生前に学費や婚姻費用など特別の支援を受けた場合における他相続人との遺産分割の公平を図る「特別受益(とくべつじゅえき)」の制度があります。
しかし、相続から10年経過した場合の遺産分割手続には、寄与分規定や特別受益といった民法上の規定は適用されず、法律上定められた相続分や、遺言書によって指定された相続分で遺産分割をおこなうこととされました。(改正後の民法904条の3:新設)
そのため、法律で定められた相続分に個別の事情を加えた特別受益などを主張したいのであれば、相続が開始してから10年以内に遺産分割を進めていかなければなりません。
2.相続土地国庫帰属制度
「相続土地国庫帰属制度」とは、土地の所有者の申請により、国に権利を移す制度です。
(「相続等により取得した土地所有権の国庫へ帰属する法律(国庫帰属法)」により、新たに制度が設けられました。)
但し、この手続の対象となるのは、① 相続、② 遺贈により取得した土地の相続人です。また、国の負担を増やさないよう、通常想定される管理費用・労力が大き過ぎる土地は対象外です。
相続または遺贈により取得した、下記以外の土地
建物や通常の管理又は処分を阻害する工作物(例:不法投棄された車両)等がある土地/土壌汚染や埋設物がある土地/崖があり危険な土地/権利関係に争いがある土地/担保権(例:抵当権)等が設定されている土地/境界が明らかになっていない土地/他人によって使用される予定のある土地 など
申請後、法務局による書面審査や実地調査などの審査があります。
そのため、審査手数料がかかることや、国に帰属させることが承認された場合には10年分の土地管理費相当額の負担金を納めなければなりませんので、事前に費用を準備しておく必要があります。
国有地の標準的な10年分の管理費用は、放置しても問題ないような手間のかからない原野で約20万円、適切で一定の管理が求められる市街地の宅地(200㎡)で約80万円となっています。
このように詳細な管理費用については、周辺環境によって政令により定められています。 政令とは、分かりやすく言えば「内閣が制定する命令」になります。
3.個人の氏名・住所、法人の名称・住所変更時の職権登記
これまで、個人(自然人:しぜんじん)や法人の名、住所が変更した場合には、登記申請が
必要でした。
その変更内容が登記に反映されない限り、土地取引に関わる方は、所有者に関する正しい情報を把握することができませんでした。
今回の不動産登記法の改正により、①「所有不動産記録証明制度」の新設、②「住所・氏名変更の登記申請の義務化」、③登記官が住民基本台帳ネットワークシステム等から変更情報を取得し職権で変更登記、をおこなう仕組みを設けました。
3-1.所有不動産記録証明制度(新設。改正不動産登記法119条の2)
これまでの不動産の登記情報は、土地や建物といった個別の不動産ごとに作成されています。
そのため、相続が発生した場合における所有不動産の調査は、① 法務局に各別に登記事項証明書を取寄せる、② 不動産の所在地がある役所に、名寄(固定資産税を課税するための台帳を取寄せる)するなど手間がかかります。
しかし、この証明制度では、亡くなられた親族(被相続人)が所有する不動産について、相続人が不動産の一覧を知ることができるようになります。
法務局に手数料を納め、所有不動産登記記録証明書の交付を請求することができます。
この一覧を請求できるのは、①所有権の登記名義人のご本人、②相続人、③代理人など(例:親権者、後見人、財産管理人、委任による代理人、遺言執行者、破産管財人)です。
3-2.住所・氏名変更の登記申請の義務化
所有権の登記名義人である場合、氏名(個人)・名称(法人)・住所に変更が生じた時には、その時から2年以内に登記申請をする必要があります。
相続登記の義務と同じく、違反すると過料の制裁があり、その金額は5万円以下となっています。
なお、この氏名・名称・住所の変更の登記義務は、施行日(令和3年4月28日以降5年を超えない範囲で政令にて定める日)以前のものも対象になるので注意が必要です。
3-3.住民基本台帳ネットワークからの取得情報をもとにおこなう登記官の職権登記
登記名義人となっている不動産の住所・氏名の変更があっても、登記申請がなければ現状を反映されません。
現在の所有者情報を登記に反映させるために、住所・氏名の変更登記が義務化されましたが、登記名義人の負担を減らし、すみやかに登記情報に反映させるための仕組みが設けられました。
あらかじめ個人の方においては、住民基本台帳ネットワークシステムの検索用情報を法務局に提供し、その情報をもとに登記官が定期的に同システムにアクセスして、異動情報等を照会します。
変更を確認したら、登記官は所有権の登記名義人の承諾や申出がある場合に限り、職権で住所・氏名の変更登記をおこないます。
一方で、法人であれば会社法人番号等の情報を申し出ておくことで、法人の名称・住所に異動があった場合には、法務局の商業・法人登記システムから不動産登記システムに通知があります。
これを受けて、登記官が職権で名称または住所の変更登記をおこないます。
4.相続人申告登記の制度創設
亡くなられた親族の相続財産の分割について、遺言書が残されておらず、相続人による話し合いをおこなう場合、相続人全員が参加する必要があります。
そのため、相続人調査、相続不動産を含めた相続財産の調査もおこなう必要があります。話合いの結果に基づく、相続人への名義変更手続は負担が大きいものです。
さらに、当事務所でも取り扱い事例のある「数次相続(相続が繰り返して発生していること)」では、相続人が多数にわたり、全国に散らばっていることもあり、相続人の協議が困難なケースがあります。
司法書士などの専門家が関与していない場合、相続の場面において「手続負担の大きさ」が、相続登記がおこなわれない原因になっています。
そこで、こうした相続登記の負担軽減のために設けられたのが「相続人申告登記」です。
4-1.相続人申告登記の申出方法
相続人申告登記は、法務局に相続人等が申出をおこない、登記官が職権でおこなうものです。
この際、対象の不動産の登記名義人である被相続人の相続人であることが分かる戸籍謄本等を提供し、定められた情報(住所・氏名など)を合わせて申出をおこないます。
4-2.相続人申告登記の効果
相続人申告登記をおこなうことで、法律で定められた相続登記義務を果たしたことになります。しかし、同申告登記後に対応が必要になるので注意が必要です。
4-3.相続人申告登記後にも対応は必要
相続人申告登記ののち、遺産分割で対象不動産の所有権を得た方は、この遺産分割の日から3年以内に所有権移転登記の手続をおこなう必要があります。
ただ、一点注意が必要です。
相続人申告登記よりも前に、遺産分割により相続不動産の所有権を取得していた場合には、申告登記をおこなっても、相続登記の申請義務を果たしたことにはなりません。
あくまで、相続人申告登記は、遺産分割協議などが進まず、相続登記ができずにいる相続人の登記義務違反をまぬがれるためのものとも言えます。
そのため、遺産分割が済んでいる場合には、相続登記手続をおこなう必要があります。
5.最新情報に対応した相続登記サポート
上垣司法書士事務所では、常に法律改正や裁判例などの情報を反映した、相続手続代行のサポートをおこなっています。
専門家に依頼するには費用がかかります。
ただ、その費用の中には「手続負担」「適切に処理されること」「問題解決までのサポート一式」が含まれていて、司法書士だからこそできる安心感が含まれています。
相続手続は、オーダーメイド性の高いものです。
ぜひ、一度当事務所までお問合せ、ご相談ください。
特集ページ | 相続登記の義務化
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