債権者代位による登記、差押を受けた相続不動産の持ち分移転登記手続|神戸市北区在住 O様|解決事例


登記手続

執筆者 司法書士 上垣 直弘


  • 兵庫県司法書士会登録番号 第1549号
  • 簡易裁判所訴訟代理認定番号 第712178号

日頃、東播磨地域(明石市、加古川市、高砂市、稲美町、播磨町)や淡路市、神戸市にお住まいの個人、中小企業の方から不動産登記手続を中心に年間100件以上のご依頼を受けています。中でも遺産整理手続の依頼は多く、これまで遺産の名義変更や処分、不動産の相続登記を数多く取り扱った実績があります。

遺産分割協議書にもとづく相続登記手続 | 神戸市北区在住 O様 | 解決事例概要
依頼者様 兵庫県神戸市北区 在住
ご依頼内容 遺産分割を原因とする持ち分移転登記
手続代行・サポート内容 登記手続神戸地方法務局北出張所、権利証(登記識別情報通知)の受領、債権者代位による登記のため登記識別情報がないため「資格者代理人による本人確認情報を提出する方法(同法23条4項1号)」による登記手続)

ご相談の経緯

 

お世話になっている神戸市の弁護士F先生から、
「ある相続で、遺産分割協議が成立したので、協議の内容のとおりに不動産の名義を変更してほしい。」
と連絡がありました。

 

F先生から名義変更の対象となる不動産の登記事項証明書をいただき、
それらを確認したうえで詳細を伺うと以下のような内容となっていました。

 

神戸市の債権者代位による相続登記後、税金滞納の解消による差押登記の抹消を経て、遺産分割協議・持ち分移転登記をおこない相続内容を実現した解決事例

 

  1.  不動産の名義人が死亡
  2.  相続登記をおこなわない間に、相続人が神戸市に対する税金を滞納
  3.  神戸市が不動産を差押えるために、差押登記の前提として債権者代位により法定相続分で相続登記をおこなう。
  4.  その後、滞納された税金を支払ったため差押登記は抹消される。

     (※法定相続分でなされた相続登記はそのまま)

  5.  相続人全員による遺産分割協議が成立した。

 

相談のポイント

 

今回のケースでは、「債権者代位による相続登記」がなされていました。

「債権者代位による登記」とは
本来、登記の申請は本人がおこなうのが原則ですが、債権者が自身の債権を守るために、 債務者の登記申請する権利を、債務者に代わって行使することをいいます。
今回のケースでは、神戸市(債権者)が、相続人が滞納した税金を回収する権利(債権)を守るために、不動産を差押える前提として、相続人(債務者)に代わって相続登記をおこっなっていました。

 

債権者代位により相続登記がおこなわれる場合、
必然的に法定相続分で登記がなされることになります。

 

その後、相続人間で遺産分割協議が成立した場合における登記手続の問題として、大きく2つ挙げられます。

いったんなされたされた法定相続分による相続登記は消えない

 

債権者代位により、いったん法定相続分で相続登記がされた場合、

滞納した税金を全額支払うなどして代位された原因がなくなったしても、

その相続登記はのこり続けます

 

したがって、法定相続分でなされている名義を、

遺産分割協議書の内容どおりに変更していくには、

「遺産分割」を原因として持分の移転登記をおこなうことになります。

 

たとえば、ある不動産について、

相続人A(4分の2)、B(4分の1)、C(4分の1)の法定相続分で登記がなされた後、

遺産分割協議によりAが取得することになった場合、

「遺産分割」を原因としてBおよびCの持分をAに移転させる登記を申請します。

 

この場合、BおよびCとAが共同して登記申請をおこなうことになります。

 

債権者代位による相続登記では相続人に登記識別情報(権利証)が発行されない

 

前述したとおり、遺産分割による持分移転登記の申請は、

対象不動産の持分を新たに得る相続人(登記権利者)と、持分を失う相続人(登記義務者)が共同しておこないます

 

その際、持分を失う相続人は、

登記申請書にとともに登記識別情報(権利証)を法務局に提出する必要があります。

ただし、登記識別情報(権利証)は、
「その登記をすることによって登記名義人となる申請人」に発行されるため(不動産登記法21条)、

登記名義人とならない債権者により代位でなされた相続登記では、登記識別情報は発行されないことになります。

 

登記識別情報(権利証)がない場合、

次のいずれかの方法で手続をおこなうことになります。

 

ⅰ 事前通知による方法(不動産登記法23条1項)

事前通知とは、登記官が登記義務者に対し、

申請があった旨および申請の内容が真実であれば一定期間内に申出をすべき旨を通知し、

これに対する登記義務者からの申出により登記をおこなう方法です。

 

逆に通知に対する登記義務者からの申出がなければ登記ができないことになります。

 

ⅱ 資格者代理人による本人確認情報を提出する方法(同法23条4項1号)

この方法では、その登記申請を代理する資格者(司法書士など)が、

登記義務者と直接面談し、身分証明書(※)の提示をうけて本人であることを確認します。

 

その内容を本人確認情報として作成し、登記官に登記申請書とともに提出します。

登記官が、本人確認情報の内容が相当であると認めた場合、事前通知は省略されます。


(
※この場合における有効な身分証明書は不動産登記規則72条で定められています。)

 

ⅲ 公証人による認証制度を利用する方法(同法23条4項2号)

この方法では、登記義務者本人が公証人の面前で、

登記申請にかかる司法書士への委任状に署名押印し、

公証人が本人であることを確認したうえで、

その書類に公証人の認証をうけます。

 

認証をうけた委任状を登記申請書に添付して申請し、

登記官がその認証を相当であると認めた場合、事前通知は省略されます。

 

担当司法書士からのコメント

 

登記手続をおこなう法務局では、たとえばAからBへ名義を変更する場合、

権利を失うAについて、

①実印の押印、

②印鑑証明書、

③登記識別情報または登記済証(いわゆる権利証)、

の3点でAに登記の申請意思があるかどうかを形式的に判断します。 

 

今回のケースでは、「債権者代位による相続登記」がなされたことで、

登記識別情報(権利証)が相続人に対して発行されず、

手続の煩雑さが増加してしまいました。

 

また、権利証を紛失してしまっっても再発行はできないため、

権利証の提出が必要な登記申請をおこなう場合、

前述のいずれかの手続をおこなう必要があることに注意が必要です。

 

 今回の事例のサポート

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