100万円以下の少額債権の回収方法について解説します。また、不動産事業者の方における滞納家賃、未収地代の問題は税務上、経営上、相続時の問題が大きく、問題が発生した初期の段階から早い対応をおこなうことで、リスクを低く抑えることができます。
少額債権における一般的な回収方法と、不動産事業者における滞納賃料等の対応についてお伝えします。
少額債権回収について
金銭の貸し借り、未払い賃料(滞納家賃)の回収など少額債権の回収について知っておきたい基礎知識、回収手続について解説します。
個人間の金銭の貸し借り、不動産オーナーにおける未払い賃料(滞納家賃)の回収は、その額が大きくないため、回収費用を考えると専門家に依頼することが難しい側面があります。
しかし、不動産オーナーにおける未払い賃料の回収を放置することは、税務面などにおいてリスクがあります。
ここでは、一般的な少額債権の回収手続と、不動産オーナーにおける滞納賃料の回収方法について、①滞納発生時の初動、②税務面などにおける未払賃料におけるリスク、④回収にあたっての具体的な解決策について解説します。
債権回収の手段
法律上、金銭支払いなど相手に「財産上の行為を求めることができる権利」のことを「債権(さいけん)」と言います。
少額債権の回収方法として次の手段が考えられます。
- 内容証明郵便
- 支払督促手続(簡易裁判所)
- 少額訴訟(簡易裁判所)
- 通常訴訟(簡易裁判所または地方裁判所)
債権回収のポイントは「相手から回収可能か」
なお、裁判所の手続を利用した債権回収について、考えておかないといけない点があります。
「金銭を返さない」「賃料を支払ってくれない」という怒りの感情を持ってお越しになられる相談者の方は多くいらっしゃいます。
しかし、実際に回収できる可能性がなければ、費用や時間をかけて滞納賃料の回収をおこなう必要性はありません。(なお、不動産オーナーの滞納賃料の問題は、後で解説する「課税リスク」「早期の明け渡しに寄る経済的利益の回復」という点で、裁判手続の利用を検討する意味があります)
まずは冷静になって、次の点について検討をおこなってみましょう。
滞納賃料を支払う能力があるか
1つは、交渉や裁判手続の結果、回収できる状態になった際に「財産が確保されているか」どうかを確認しておく必要があります。
不動産、勤務先、預貯金口座。
差し押さえる財産があるかどうか、が一つのポイントになります。
債権回収に対するコストと手間の比較
例えば、任意交渉では話がつかず、裁判手続による債権回収をおこなう場合、「勝訴判決」または支払う旨の「和解」を得る必要があります。
勝訴判決などを得てもなお、支払いをしてこない場合には、強制執行手続をおこないます。
そのため、裁判手続を利用した債権回収には費用と手間がかかります。
また、賃借人名義であった財産が第三者に移されてしまった場合には、「本人名義の財産ではない」ため強制執行をおこなうことはできません。
つまり、裁判手続により勝訴などを得るために費やしたとしても、財産の名義を第三者に移されてしまうと時間や費用が無駄に終わってしまいます。
そのため、裁判手続をおこなう際には、賃借人の財産状況を調査し、資産がある場合には相手方の資産を仮に差し押さえてしまう制度(地方裁判所の「保全手続」)の利用を検討する必要があります。
つまり、保全手続、裁判手続(本訴とも言います)、強制執行手続の3ステップを考えなければなりません。
なお、裁判手続をおこない勝訴・支払いの和解を得てもなお未払が続くような場合には、回収を行うための実際の手続である「強制執行手続(地方裁判所)」が必要になると解説しましたが、例外があります。
すでに公証役場で作成する「公正証書」により金銭の貸し借りについての契約書を作成している場合には、裁判手続を経なくても、いきなり強制執行手続をおこなうことができます。
そのため、金銭の貸し借りについて、裁判手続の手間を省くため公正証書で契約書作成をおこなっておくと良いでしょう。
不動産オーナー特有の滞納賃料の問題
不動産オーナー、管理会社の方から相談の多い「滞納賃料」の問題があります。
滞納賃料を放置することはないと思いますが、放置した場合には大きく分けて、2つのリスクがあります。
税務面のリスク
賃料に滞納があったとしても売上に計上しなければならず、課税の対象となってしまいます。
実際に利益を得ていないにも関わらず、課税されるのは経営上大きな損失です。
また、賃借人が入居中で賃料の支払いを拒否しているような場合には、「退去」させるための裁判手続をとり、退去させて滞納賃料を貸倒損失として処理をおこないます。
なお、滞納賃料(未払賃料)や未収の地代にも相続税がかかるため、無駄な税金を支払うことにもなりかねません。
そのため、滞納賃料の問題が発生した場合には、滞納賃料の回収または退去を目的として、早めの対応が求められます。
経済上のリスク
滞納賃料、地代の未払いが発生したような場合には「初動が大切」です。
実は、家賃滞納が発生して直ぐに「滞納賃料を原因とした建物明渡」が完了するまでに、おおよそ7か月かかります。
また、手続中における新規入居者の募集をすることも難しいため、長い間未払いの状態は続くことが考えられます。
図表 滞納賃料から回収までの期間
【任意交渉】1日~1か月 |
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任意交渉により滞納賃料の支払の督促を続ける。 |
①賃借人に滞納賃料の支払い督促の連絡 |
②連帯保証人に支払いの連絡 |
③裁判手続による提訴を事前通知 |
【裁判手続】1か月~2か月 |
滞納賃料回収のための裁判手続をおこなう。 |
④賃料請求の訴えの提起(簡易裁判所) |
⑤催告書兼条件付賃貸借契約解除通知を発送する |
【裁判手続】2か月~4か月 |
建物明渡を求めて裁判手続をおこなう。 なお、以降の手続に要する期間の目安は、賃借人(被告)が裁判手続の期日に出頭せず、賃貸人(原告)の勝訴判決がすぐに得られる場合を想定しています。 |
⑥建物明渡請求訴訟提起(地方裁判所) |
⑦建物明渡請求訴訟1回目期日 |
⑧勝訴判決 |
【裁判手続】5か月~7か月 |
建物明渡請求訴訟の「勝訴判決」を得て初めて、裁判所に明け渡しを求める強制執行手続をおこなうことができます。 |
⑨明渡執行の申立 |
⑩明渡執行の予告 |
⑪明渡執行の断交(明渡の完了) |
このように滞納賃料の問題は「初動」が肝心で、放置することに何らメリットはありませんので、すぐに当事務所までご相談ください。
連携している弁護士事務所とともに問題解決にあたります。
任意交渉による債権回収(内容証明郵便による督促)
内容証明郵便は、差し出した内容(記載内容について、いつ提出し、受領されたのか)について郵便局が証明してくれる郵便物のことをいいます。
任意交渉において「言った、言わない」を避け、のちにおける証拠とすることができます。
内容証明郵便には、債権の内容を特定して、支払期限などを記載して送付します。
支払督促による債権回収
支払期限を過ぎても、返済がない場合には裁判手続による回収を検討します。
「裁判手続」というと、法廷で主張を戦わせる「訴訟」を思い浮かべがちですが、「支払督促(しはらいとくそく)」は書類審査のみで裁判所に出向く必要もない手続です。
支払督促は、売買代金、滞納家賃、未収の地代、未払い給料など「金銭」に関する支払いについて利用することができます。
特徴としては、①書面審査のみ(裁判所に行かなくていい)、②裁判所の手数料が、訴訟の半分、③相手方が異議を申立てせず、お金も支払わない場合には「仮執行宣言付支払督促(かりしっこうせんげんつきしはらいとくそく)」が裁判所書記官からなされ、強制執行(差押など)の手続にうつることができます。
しかし、相手方から異議を申立てたときは、通常の「訴訟」手続に移行します。
紛争の対象となる金銭が140万円以下の場合は簡易裁判所、140万円を超える場合には地方裁判所で訴訟手続がおこなわれることになります。
そのため、相手が異議を申立てる可能性がある場合には、訴訟手続を想定しておく必要があります。
図表 支払督促の申立書の書式例
少額訴訟による債権回収
少額訴訟は、簡易裁判所を利用した手続です。
先ほどの支払督促は、相手方が異議を申立てると「訴訟」に移行する可能性があります。
移行した場合には、通常の訴訟となり手続が面倒であるため、弁護士に依頼する必要が出てきます。
少額訴訟は、通常の訴訟よりも一般の方でも利用しやすいよう、簡単で手軽な手続となっています。しかし、その一方で、相手方に請求する金額が「60万円以下」に限られています。
図表 少額訴訟利用による利用者のメリット
少額訴訟利用による利用者のメリット | |
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手続の負担 | ・弁護士費用を抑えて、自身で手続を進めやすい |
裁判の負担 | ・原則、審理は1回、即日判決のため、裁判所へ出向く負担が少ない |
手続の負担 | ・最寄りの簡易裁判所で手続できる |
なお、少額訴訟は同じ簡易裁判所で1年間に10回までの利用しかできず、もめている内容が複雑で、被告(相手方のこと)からの申立により通常の訴訟に移行する可能性もあります。
図表 少額訴訟申立書の記載例
通常訴訟による債権回収
通常訴訟とは、一般の方の方がイメージする主張をぶつけ合い、裁判所の判断あるいは裁判官の提案にもとづき和解による解決をおこなう手続です。
紛争の対象となる金銭が140万円以下の場合は簡易裁判所、140万円を超える場合には地方裁判所で訴訟を提起します。
訴訟手続は、より確かに、より具体的に自身の主張をおこない、有利な結果を得るためには弁護士に依頼されることが賢明です。
裁判所を利用した債権回収を検討されている場合には、日々、裁判事務を取り扱い、交渉業務が主力業務である弁護士への相談を選択肢の一つとして検討されることをお勧めします。
債権回収手続のまとめ
個人間の金銭の貸し借りにおける回収は、相手方に「返済能力があるか」「支払いをどう強制するか(確実に返済させるか)」「回収費用が、請求額と比べて高いか」という点を検討して、手続に移ることが大切です。
一方で、不動産事業者における滞納賃料、未収地代の問題については、初動が重要であり「貸倒損失としての損金処理」「新規入居者の募集のための建物明渡手続の実施」「相続税の問題」を念頭においた、根本的解決のための対応が大切です。
当事務所では、不動産事業者の方の滞納家賃の問題について、業務提携をおこなっている弁護士とともに不動産問題として対応をおこなっています。
法務大臣より「簡易裁判所において代理業務をおこなうことができる」と認定を受けた司法書士が在籍しています。任意交渉から裁判手続までの幅広い選択肢の中で、適切な解決策についてアドバイスをさせていただきます。
事案に応じて弁護士の紹介等をさせていただきます。まずはお気軽にご相談ください。