不動産登記の名義変更とは?基本的な仕組みと手続き概要を徹底解説
登記手続
執筆者 司法書士 上垣 直弘
- 兵庫県司法書士会登録番号 第1549号
- 簡易裁判所訴訟代理認定番号 第712178号

日頃、東播磨地域(明石市、加古川市、高砂市、稲美町、播磨町)や淡路市、神戸市にお住まいの個人、中小企業の方から不動産登記手続を中心に年間100件以上のご依頼を受けています。中でも遺産整理手続の依頼は多く、これまで遺産の名義変更や処分、不動産の相続登記を数多く取り扱った実績があります。
目次
-
- 不動産登記の名義変更とは?基本的な仕組みと手続き概要を徹底解説
- 1.不動産の登記の名義変更が必要となる主なケース
- 1-1.相続による名義変更
- 1-2.生前贈与による名義変更
- 1-3.離婚に伴う名義変更
- 1-4.不動産売買による名義変更
- 1-4-1.二重譲渡のリスク
- 1-4-2.差押えのリスク
- 2.登記の名義変更手続きの流れ
- 2-1.事前準備と登記申請書の作成
- 2-2.管轄法務局への提出と審査
- 2-3.登記完了通知の受け取りと登記簿謄本の確認
- 3.登記の名義変更にかかる費用や税金
- 3-1. 登録免許税とその計算方法
- 3-2. 専門家への依頼費用とその他の手続き費用
- 3-3. 登記原因別の登録免許税以外の税金(贈与税・相続税など)
- 4.自力で手続きをするか専門家に依頼するかの判断ポイント
- 4-1.自分で手続きするメリット・デメリット
- 4-2.専門家へ依頼するメリット・デメリット
- 5.登記の名義変更でよくある質問と注意点
- 5-1.節税対策に関する疑問・リスク
- 5-2.名義変更の遅れにともなうトラブルの回避
- 6.まとめ
不動産登記の名義変更とは?基本的な仕組みと手続き概要を徹底解説
不動産登記の名義変更(所有権移転登記)とは、不動産の所有者が変わった際にその事実を公的に示すために行う手続きです。
相続や遺贈、生前贈与、売買など、さまざまな要因によって名義を変更する必要がある場合の手続となります。
なお、不動産の所有者は変わらないものの、所有者の表示(住所や氏名など)に変更がある場合、例えば結婚、離婚、養子縁組などによる氏名の変更、法人の名称(商号)変更、引っ越しなどによる住所変更、行政区画などの変更による住居表示の変更の場合には、所有権移転登記ではなく、登記名義人表示変更登記をおこないます。
本記事では、不動産登記の名義変更の基本から具体的な手続き、必要書類や費用について幅広く解説します。
1.不動産の登記の名義変更が必要となる主なケース
不動産の登記の名義変更(所有権移転登記)は、所有者が変わった時におこなう必要があります。
ここでは、具体的にどのようなケースで必要となるのかを確認していきましょう。
名義変更が必要となる典型的なパターンには、相続、贈与、離婚(財産分与)、そして不動産の売買などがあります。
これらのケースでは、登記簿上の所有者として記載されている人物や法人が、実際の所有者と食い違わないよう、法務局に申請を行い、正しい所有者を示しておく必要があります。
名義変更を怠ってしまうと、第三者に対して権利を主張しづらくなるだけでなく、後々のトラブル発生のリスクを高めるため注意が必要です。
特に相続のケースでは、2024年4月から相続登記が義務化されており、期限内に完了しないとペナルティ(過料)が課される可能性があります。
離婚時に行う財産分与や生前贈与による名義変更手続きを遅らせた場合も、関連する税金や法務上のリスクが大きくなることがあります。
つまり、いつどのような理由で名義変更が必要になるかを把握しておき、適切なタイミングで確実に手続きを進めることが重要です。
1-1.相続による名義変更
被相続人が遺した不動産を相続した場合には、相続人がその不動産の名義を変更する手続きが必要です。
これを相続登記と呼び、戸籍謄本や遺産分割協議書、被相続人の除票や相続人の住民票などを用意して法務局へ申請します。
参考 相続登記の必要書類(例)
- 遺言書に基づく相続登記の必要書類
・ 登記申請書(登録免許税相当額の収入印紙貼付)
・ 不動産の固定資産評価証明書(最新年度のもの。登録免許税の計算に使用。)
・ 委任状(司法書士等に委任する場合)
・ 被相続人(亡くなった親族)の死亡の記載がある戸籍謄本等
および住民票除票(戸籍の除附票)
・ 不動産を取得する相続人の戸籍謄本と住民票
・ 遺言書(検認が必要な遺言は検認済証明)
- 遺産分割協議による相続登記の必要書類
・ 登記申請書(登録免許税相当額の収入印紙貼付)
・ 相続関係説明図
・ 不動産の固定資産評価証明書(最新年度のもの。登録免許税の計算に使用。)
・ 委任状(司法書士等に委任する場合)
・ 被相続人(亡くなった親族)の出生から死亡までの
全ての戸籍謄本等および住民票除票(戸籍の除附票)
・ 相続人全員の戸籍謄本と印鑑登録証明書
・ 不動産を取得する相続人の住民票
・ 遺産分割協議書
参考記事
- 法務局の遺産分割協議書のひな形(ダウンロード可能・Word/Excel/PDF版)で解説する「相続登記申請」
法務局ホームページで公開されている遺産分割協議書のひな形(サンプル)をもとに、相続登記申請について登記手続きの専門家である司法書士が解説します。法務局の遺産分割協議書のテンプレート、その登記申請書のサンプルもダウンロードできるWord/Excel/PDFファイルをご用意しました。
2024年4月から相続登記は義務化され、原則として相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内の登記完了が必要です。
もし放置してしまうと、過料というペナルティを受ける可能性があるだけでなく、被相続人の名義のままだと売却ができなかったり、後日必要な書類の取得が難しくなるなどといったリスクもあるため、なるべく早めに取り掛かることが大切です。
参考記事
- 特集ページ│相続登記の義務化
相続登記の義務について、制度の概要、相続登記義務の回避の方法などについて解説した各コラムをまとめた特集ページです。
- 相続登記をしないとどうなる?相続登記の放置リスクと対策を徹底解説
相続登記は法律上の義務であり、正当な理由なく登記手続きを行わないと罰則を受けるリスクがあります。それ以外にも不動産の有効活用や税制上の優遇措置が受けられないなど様々な問題が生じます。こうしたリスクの基礎知識だけでなく、相続登記申請ができない場合の対応方法について司法書士が解説しています。
登記申請書や必要書類が揃えば、対象不動産を管轄する法務局に持参または郵送にて提出します。
関連コラム
- 不動産の相続。基礎知識から相続登記手続きまで徹底解説
不動産相続の手続き、法律制度、税金の問題への対処、そして専門家の利用の重要性などの理解を目的に、相続人が知っておきたい情報をまとめて解説しています。
相続登記にかかる全体の費用は、ご自身で手続きを行う場合は登録免許税 + 書類取得費用となります。
専門家である司法書士に依頼する場合、これに司法書士の報酬が加算となります。
登録免除税は国に納める税金であり、不動産の固定資産評価額に0.4%(1000分の4)を乗じて計算します。
例えば、固定資産評価額が1,000万円の不動産であれば、登録免許税は1,000万円 × 0.4% = 4万円となります。
これに、先ほどの必要書類の取得費用(実費)がかかります。
参考 必要書類の取得費用(目安)
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戸籍謄本(現在戸籍):1通 450円
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除籍謄本、改製原戸籍謄本:1通 750円
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住民票:1通 200円~400円程度(市区町村による)
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固定資産評価証明書:1通 200円~400円程度(市区町村による)
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相続登記申請にかかる費用を、相続のパターン別(①遺言書にもとづいておこなう場合、②遺産分割協議による場合、③法定相続分どおりにおこなう場合)に解説しています。
なお、弊所でも相続登記の代行をおこなっていますので、相続関係が複雑である場合なども含めて、ぜひお気軽にご相談ください。
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1-2.生前贈与による名義変更
親や祖父母から子や孫へ、不動産を生前贈与するケースは少なくありません。
生前贈与の名義変更には贈与契約書や印鑑証明書、住民票などが必要で、贈与税が発生する可能性もあります。
参考 贈与による名義変更登記の必要書類(例)
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登記申請書(登録免許税相当額の収入印紙貼付)
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委任状(司法書士等に委任する場合)
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贈与する人の必要書類
(A) 贈与不動産の登記済証または登記識別情報通知
(B) 印鑑証明書(発行から3カ月以内)
(C) 固定資産税評価証明書(最新年度のもの。登録免許税の計算に使用。)
- 贈与を受ける人の必要書類
(A)住民票
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贈与契約書
なお、贈与税の基礎控除や配偶者控除などの制度を上手に活用することで節税が期待できるケースがあります。
税制は変更されることが多く複雑であるため、制度を利用する際には適用要件や手続きの確認を税理士に相談し、正確な情報をもとに進めることが重要です。適用要件の判断を誤ると逆に税額が高くなることもあるため注意しましょう。
贈与による名義変更は、相続対策や財産分割の円滑化が期待できる一方、税負担や贈与後の管理責任などトータルでのメリット・デメリットをよく比較してから行うことが大切です。
参考記事
- 不動産の生前贈与の手続き。相続税対策としてのメリット・デメリットなどを解説。
不動産の生前贈与のために理解しておくべき、贈与契約書の作成、不動産登記、贈与税の申告といった手続きや、生前贈与と相続を比較した際の具体的なメリット・デメリットなどについて司法書士が詳しく解説しています。
生前贈与による所有権移転登記にかかる登録免許税は、固定資産評価証明書の評価額の2%です。
相続登記と異なり、登記の期限は設けられていません。
ただし、第三者に対して権利を主張するためには登記が必要になります。
そのため、早めに名義変更を済ませておきましょう。
1-3.離婚に伴う名義変更
離婚時に行う財産分与で不動産を移転する場合は、① 協議離婚の場合は離婚後に夫婦共同申請、② 離婚調停・審判・訴訟により離婚する場合は財産分与を受ける人が単独で所有権移転登記をおこないます。
参考 協議離婚による所有権移転登記の必要書類(例)
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登記申請書(登録免許税相当額の収入印紙貼付)
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委任状(司法書士等に委任する場合)
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財産分与をする人(登記義務者)
(A) 対象不動産の登記済証 または 登記識別情報通知
(B) 印鑑証明書(発行から3ヶ月以内)
(C) 固定資産評価証明書(最新年度のもの。登録免許税の計算に使用。)
(D) 離婚後の戸籍謄本
(E) 財産分与があったことが分かる書類(財産分与契約書、離婚協議書など) - 財産分与を受ける人(登記権利者)
(A)住民票
参考 離婚調停・離婚審判・離婚裁判による所有権移転登記の必要書類(例)
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登記申請書(登録免許税相当額の収入印紙貼付)
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委任状(司法書士等に委任する場合)
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財産分与を受ける人(登記権利者)
(A) 住民票
(B) 固定資産評価証明書(最新年度のもの。登録免許税の計算に使用。)
(C) 登記原因証明情報
・ 調停調書、和解調書、審判書、判決など
上記書面に「申立人は、相手方に対し、離婚に伴う財産分与として、
別紙物件目録記載の不動産を譲渡することとし、
本日付け財産分与を原因とする所有権移転登記手続きをする」などの記載がある場合、単独申請可能。
財産分与による所有権名義変更登記にかかる登録免許税は固定資産税評価証明書の評価額の2%です。
また、相続登記と異なり登記期限も特に設けられていません。
ただし、特に協議離婚の場合、離婚した元夫婦の共同申請であり、離婚後に協力を得られにくくなる可能性が高いため、離婚前から登記申請の準備を進めておき、早めに名義変更を済ませるようにしましょう。
なお、住宅ローンの借入が残っている場合、抵当権者である金融機関(銀行等)に承諾を得る必要があります。
無断で所有権移転登記をおこなった場合、契約違反となり残債務の一括返済を求められる可能性があるので注意が必要です。
離婚にともなう財産分与は通常、贈与税はかかりません。
ただし、「分与された財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額やその他すべての事情を考慮してもなお多過ぎると判断された場合」や「離婚が贈与税や相続税を免れるために行われたと認められる場合」には贈与税がかかることがあります。
また、土地・建物が取得時よりも高い場合には譲渡所得税が課されることがあります。
財産分与が円満にまとまっても、登記手続きを済ませなければ正式には名義が変わらないため、早めに司法書士や専門家に相談して手続きを進めると安心です。
1-4.不動産売買による名義変更
不動産売買による所有権移転登記は、登記原因として多い名義変更手続きです。
主に次のような書類が必要になります。
参考 不動産売買による所有権移転登記の必要書類(例)
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登記申請書 (登録免許税相当額の収入印紙貼付)
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委任状 (司法書士等に委任する場合)
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売買契約書など (登記原因証明情報)
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印鑑証明書 (売主の発行後3ヶ月以内のもの)
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住民票 (買主の発行後3ヶ月以内のもの)
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固定資産評価証明書 (最新年度のもの。登録免許税の計算に使用。)
売買を原因とする登記手続きに期限はありません。
ただし、住宅ローンなどの融資を利用して不動産を購入する場合、売買による買主への名義変更をしなければ融資がおりません。
この名義変更にかかる登録免許税は、原則として固定資産税評価証明書の評価額の2%です。
ただ、その時々で登録免許税の税率軽減措置が実施されていることがあるので注意が必要です。
例えば、個人が自己の居住の用に供する一定の要件を満たす住宅用家屋を取得した場合や、土地を売買により取得した場合に適用される特例措置があります。
参考 特例措置の例
- 対象となる登記(※一例)
① 個人が取得した自己の居住の用に供する家屋の所有権の移転登記(売買の場合)
② 土地の売買による所有権移転登記の場合
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軽減される税率
① 家屋: 固定資産評価額の0.3% (1000分の3)
② 土地: 固定資産評価額の1.5% (1000分の15)
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適用期限
①については令和9年(2027年)3月31日までに登記を受けるものに適用
②については令和8年(2026年)3月31日までに登記を受けるものに適用
これらの特例措置は時限的なものであり、適用要件も細かく定められています。
具体的なケースで適用できるか、どのような書類が必要かについては、管轄の法務局や登記の専門家である司法書士に確認することをおすすめします。
なお、売買契約を締結して不動産を購入した場合、物件の引き渡し後に速やかに名義変更(所有権移転登記)をおこないましょう。
登記をすることで初めて第三者に権利を主張することができます。
例えば、登記をせずに放置することで二重譲渡や差し押さえなどのリスクがあります。
1-4-1.二重譲渡のリスク
あなたがAさんから不動産を買い、代金も支払ったとします。
しかし、名義変更登記をしないうちに、Aさんが悪意を持ってその不動産を別の第三者Cさんに二重に売却し、Cさんがあなたよりも先に名義変更登記を済ませてしまった場合、原則として先に登記を済ませたCさんが法律上の所有権を取得します。
あなたは代金を支払っているにもかかわらず、不動産の所有権を失ってしまう可能性があります。これは、あなたが登記をしていないために、Cさんに対して自分が所有者であることを「対抗できない」ためです。
あなたはAさんに対して損害賠償請求をすることができますが、Aさんに支払い能力があるとは限りません。
1-4-2. 差押えのリスク
あなたがAさんから不動産を買い、代金も支払ったとします。
しかし、名義変更登記をしないうちに、売主であるAさんに多額の借金があり、Aさんの債権者が、登記簿上の名義がAさんのままになっているその不動産を差し押さえてしまった場合、あなたは自分が真の所有者であることを債権者に対して「対抗できない」可能性があります。
その結果、不動産が競売にかけられてしまうリスクがあります。
売買等による所有権移転登記は、相続登記と異なり申請期限は特にありませんが、上記のようなリスクが存在するため早めに手続きを済ませるようにしましょう。
2.登記の名義変更手続きの流れ
実際にどのように名義変更が行われるのか、具体的な手続きを順を追って見ていきましょう。
必要書類が揃ったら、物件を管轄する法務局へ申請を行います。
申請内容に問題がある場合は、法務局から補正や追加書類の提出を求められる場合があり、迅速に対応できるよう連絡を取りやすい手段を確保しておくと安心です。
登記申請から登記完了までの期間の目安はおよそ1週間~2週間です。
ただし、不備があり補正や、法務局の混雑状況によって上記目安よりも時間がかかることがあります。
手続きが完了すると登記識別情報通知が発行されますが、登記事項証明書を取得し登記の内容を確認して誤りがないかチェックを行うことで、名義変更の最終確認ができます。
2-1.事前準備と登記申請書の作成
事前準備では、対象不動産の登記事項証明書を取り寄せたり、インターネットの登記情報提供サービスを利用して、対象物件の現在の権利関係を正確に把握します。
また、印鑑証明書など必要書類の中には有効期限が設けられていることもあります。
そのため、登記申請の予定に合わせて、期限切れとならないように揃えていくと良いでしょう。
登記申請書には申請人や不動産の所在地、登記の原因・日付などを具体的に記載します。
登記申請にあたり誤字脱字や記入漏れがあると補正といって、申請内容の修正作業が入ると手間がかかるため注意が必要です。
2-2.管轄法務局への提出と審査
書類一式をそろえたら、物件所在地を管轄する法務局に登記申請を行います。
提出方法は窓口に直接持ち込むだけでなく、郵送でも申請が可能です。
問題なく受理されれば、しばらく審査期間があり、不備や疑問点があった場合には法務局から補正通知が届くので、迅速かつ正確に補正をおこなうようにしましょう。
なお、書面による申請以外に、法務省が提供する「登記・供託オンライン申請システム」(通称:登記ねっと 供託ねっと)を利用するインターネットを通じた電子申請も可能です。
ただし、電子申請にはいくつかの準備と手順が必要となり、書面での申請に比べて専門的な知識や環境が必要となる場合があります。
登記申請書の作成だけでなく、次のような申請のための環境整備のための手間がかかるため、一般の方にはあまりおすすめはできません。
参考 電子申請の概要
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利用システム
法務省の「登記・供託オンライン申請システム」を利用します。
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申請方法
専用のソフトウェア「申請用総合ソフト」をダウンロードして申請情報を作成し、オンラインで送信する方法が一般的です。
一部の簡単な手続きについては、Webブラウザで利用できる「かんたん登記申請」もありますが、名義変更のような権利に関する登記には通常、「申請用総合ソフト」が必要です。 -
電子署名
申請情報には申請者の電子署名が必要です。個人の場合は、マイナンバーカードに搭載されている公的個人認証サービスの電子証明書を利用するのが一般的です。
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添付書類
登記の原因を証明する情報(売買契約書や相続証明書類など)や、住所証明情報などの添付書類は、オンラインで提出できるものと、原本を別途法務局に郵送または持参する必要があるものがあります(特例方式)。
現状では、添付書類の多くは書面での提出が必要となるケースが多いようです。 -
登録免許税
登録免許税の納付は、原則として電子納付(インターネットバンキングなど)で行います。
一般の方が電子申請を行うための主な手順
① 事前準備
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マイナンバーカードの取得
公的個人認証サービスの電子証明書が搭載されたマイナンバーカードが必要です。
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ICカードリーダーの準備
マイナンバーカードを読み取るためのICカードリーダーが必要です。マイナンバーカードに対応したものを用意してください。
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パソコン環境の整備
申請用総合ソフトの動作環境を満たすパソコンが必要です。法務省のウェブサイトで推奨環境を確認してください。
② 申請者情報の登録
登記・供託オンライン申請システムのウェブサイトにアクセスし、申請者情報の登録を行います。ここで申請者IDとパスワードを取得します。
③ 申請用総合ソフトのインストール
登記・供託オンライン申請システムのウェブサイトから申請用総合ソフトをダウンロードし、パソコンにインストールします。
④ 申請情報の作成
申請用総合ソフトを起動し、取得した申請者IDとパスワードでログインします。案内に従って、登記の種類(所有権移転など)、不動産の表示、登記の原因、申請人などの情報を入力し、申請情報を作成します。
物件情報については、オンラインで検索して取り込むことも可能です。⑤ 電子署名の付与
作成した申請情報に対し、マイナンバーカードとICカードリーダーを使って電子署名を付与します。ソフトウェアの案内に従って操作します。
⑥ 添付情報の準備
登記の申請に必要な添付書類(登記原因証明情報、住所証明情報など)を準備します。原本を郵送または持参する場合は、その準備を行います。
オンラインで提出可能な書類については、PDFファイルなどの電子データ化が必要になります。
⑦ 申請情報の送信
作成・署名した申請情報をオンラインで法務局に送信します。
⑧ 登録免許税の電子納付
申請情報の送信後、申請用総合ソフトを通じて登録免許税を電子納付します。
インターネットバンキングなどを利用します。⑨ 添付書類の提出(必要な場合)
原本の提出が必要な添付書類がある場合は、申請情報の送信後に速やかに管轄の法務局へ郵送または持参します。
この際、「書面により提出した添付情報の内訳表」などを添付することが求められます。⑩ 処理状況の確認
登記・供託オンライン申請システムや申請用総合ソフトで、申請の処理状況を確認することができます。
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2-3.登記完了通知の受け取りと登記簿謄本の確認
法務局での審査が完了すると、登記識別情報通知が発行され、新しい所有者名義への登記が完了し、権利関係が確定します。
通知を受け取ったら、登記事項証明書を改めて取得・確認し、登記内容に誤りがないかチェックするのがおすすめです。
誤りや不備があれば早期に訂正の手続きを行う必要があるため、この確認作業は大きなトラブルを避けるうえでも欠かせません。
3.登記の名義変更にかかる費用や税金
- 不動産の名義変更登記を行う際には、主に登録免許税という税金や、専門家への報酬など、いくつかの費用が発生します。
どの程度のコストがかかるのか、その内訳を理解しておくことが重要です。
費用の中で大きな割合を占めるのが登録免許税ですが、その他にも様々な実費や、登記の原因によっては登録免許税以外の税金(相続税や贈与税など)が発生する場合があります。
これらの費用を把握し、必要に応じて利用できる軽減措置や免税措置を活用することで、全体のコストを抑えながら手続きを進めることができます。
また、令和6年4月1日から相続登記は義務化されており、正当な理由なく期限内に手続きを行わないと過料の対象となる可能性があります。
手続きを先延ばしにすることで、後から罰金などの余計な費用が増加したり、複雑化したりするリスクもあるため、期限を意識して早めに手続きを開始することが望ましいでしょう。
3-1. 登録免許税とその計算方法
登録免許税は、不動産の登記手続きを行う際に国に納める税金です。
この税額は、登記の種類(原因)や、登記対象となる不動産の固定資産税評価額を基に計算されます。
登録免許税額の計算式は以下の通りです。
税率は登記の原因によって定められています。
主な登記原因ごとの税率は以下の通りです(原則の税率であり、特例が適用される場合は異なります)。
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売買による所有権移転登記:固定資産税評価額の2.0%(1000分の20)
※ただし、個人が居住用の一定の要件を満たす家屋を取得した場合や、土地を売買により取得した場合など、特例により軽減税率が適用される場合があります。
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相続による所有権移転登記:固定資産税評価額の0.4%(1000分の4)
※相続登記の原則の税率です。特定の条件下では免税措置が適用される場合があります。
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贈与による所有権移転登記:固定資産税評価額の2.0%(1000分の20)
※贈与による登記には、相続登記のような基本的な税率の軽減措置はありません。
このように、登記の原因によって適用される税率が大きく異なります。
登録免許税額を正確に計算するためには、最新年度の固定資産税評価証明書を取得し、不動産の評価額を確認することが必要です。
また、相続登記については、基本税率が0.4%であることに加え、特定の要件を満たす場合に登録免許税が免税となる措置(土地の価額が100万円以下の場合や数次相続の場合など)があります。
これらの特例措置には適用期限や細かい要件、申請方法があるため、利用を検討する場合は法務局のウェブサイトを確認したり、登記の専門家である司法書士に相談したりすることが大切です。
申請時期や法改正によって税率や軽減措置の内容が変わる可能性もあるため、最新情報を確認するようにしましょう。
3-2. 専門家への依頼費用とその他の手続き費用
登記手続きはご自身で行うことも可能ですが、必要書類の収集や申請書の作成、法務局とのやり取りなど、専門的な知識が必要となる場面が多くあります。
正確かつスムーズに手続きを完了させるために、司法書士などの専門家に依頼するのが一般的です。
-
司法書士報酬
司法書士に登記手続き一式を代行してもらう場合にかかる報酬です。
報酬額は司法書士事務所によって異なりますが、不動産の価額や数、登記手続きの複雑さ(相続人の数、遺産分割協議の要否など)によって変動します。
一般的な目安としては、数万円から10万円台後半になることが多いですが、事案によってはこれを超えることもあります。
事前に複数の司法書士事務所から見積もりを取り、サービス内容と費用を比較検討すると良いでしょう。 -
その他の実費
登録免許税や司法書士報酬以外にも、手続きには様々な実費がかかります。
✓ 必要書類の取得費用
戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本、住民票、固定資産評価証明書などの取得にかかる手数料(数百円~数千円/通)。
相続登記の場合は、被相続人の出生から死亡までの戸籍が必要になるなど、多くの書類が必要となり、費用も数万円になることがあります。
✓ 郵送費、交通費
必要書類の取寄せや登記申請書の郵送、法務局への移動にかかる費用など。
✓ 登記事項証明書等取得費用
登記完了後に新しい登記内容を確認するために取得する登記事項証明書などの費用など。
これらの費用を合わせると、登録免許税や司法書士報酬以外にも意外と総額が高くなることがあります。
事前に全体にかかる費用の目安を把握し、計画的に準備を進めることが大切です。
3-3. 登記原因別の登録免許税以外の税金(贈与税・相続税など)
不動産の名義変更登記を行う際に、登録免許税とは別に発生する可能性がある税金があります。これは登記の原因によって異なります。
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相続の場合:相続税
相続によって不動産を含む遺産を取得した場合、遺産総額が相続税の基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超える場合に相続税が課税されます。
相続税は相続財産を取得した人が申告・納付する必要があり、登録免許税とは別の税金です。相続登記の義務化と相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)は異なるため注意が必要です。
>不動産取得税相続による不動産の取得については、不動産取得税は課税されません。
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贈与の場合:贈与税
個人から個人へ財産を贈与した場合に、贈与を受けた側に贈与税が課税されます。
不動産を贈与した場合も贈与税の対象となります。
生前贈与には「暦年贈与制度(年間110万円の基礎控除額を利用して贈与を行う制度)」や「相続時精算課税制度(相続時にその贈与財産と相続財産を合算して相続税を計算し、既に納めた贈与税額を控除する制度)」があり、これを活用して税負担を抑えることも可能ですが、不動産の評価額によっては高額な贈与税が発生する可能性があります。
配偶者への居住用不動産の贈与には、一定の要件を満たせば2,000万円まで控除できる特例(おしどり贈与)もあります。
>不動産取得税
贈与による不動産の取得についても、原則として不動産取得税が課税されます。
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売買の場合:所得税・住民税(譲渡所得税)
不動産を売却した側(売主)に、売却益(譲渡所得)が発生した場合に所得税・住民税(譲渡所得税)が課税されます。
買主側には原則として売買による取得に対する税金(不動産取得税)がかかります。
これらの税金は、登録免許税とは計算方法も課税主体も異なります。
特に相続税や贈与税、譲渡所得税の計算は複雑になりがちで、申告を誤ると追徴課税のリスクもあります。
登記手続きだけでなく、これらの税金についても疑問点や不安がある場合は、税金の専門家である税理士に相談しながら進めると安心です。
必要に応じて、司法書士と税理士の両方の専門家に相談することも検討しましょう。
上垣司法書士事務所では、相続税申告に強い税理士と提携しています。
ご依頼後、相続税申告に関する無料相談、相続税額の簡易試算もご案内が可能です。
4.自力で手続きをするか専門家に依頼するかの判断ポイント
名義変更手続きは自身で行うことも可能ですが、手続きの難易度やリスクを踏まえたうえで検討する必要があります。
ここでは自力で行う場合と専門家に依頼する場合のそれぞれの違いを解説します。
4-1.自分で手続きするメリット・デメリット
名義変更手続きを自力で行う最大の利点は、専門家報酬を節約できる点です。
特に登記申請の経験がある場合や書類作成に慣れている場合は、自分で手続きを進めやすいでしょう。
ただし、書類の収集や作成、法務局とのやり取りをすべて自分で行う必要があるため、時間と労力がかかりがちです。
例えば、申請書の書き方や添付書類に不備があると法務局から補正を求められ、何度も足を運ぶ手間が増えます。
特に書類不備による手続きの遅延や追加費用が発生するリスクを想定しておく必要があります。結果的に時間的コストが高くなる可能性があるため、事前の準備や確認が欠かせません。
4-2.専門家へ依頼するメリット・デメリット
専門家である司法書士に依頼すると、手続きの正確さやスピードが向上し、ミスや書類不備によるトラブルを最小限に抑えられます。
また、税務上の特例や減税措置が受けられるケースでは、適用可否の判断ミスもなく、適用の機会を逃して損をするようないため、専門家の知見が大いに役立つでしょう。
一方で、専門家報酬が必要になるため、物件の評価額や手続き内容に応じてコストがかかります。
自分の法律知識や手続きに費やせる時間とのバランスを考慮して、総合的なメリットを見極めるとよいでしょう。
5.登記の名義変更でよくある質問と注意点
名義変更の手続きでは、費用や必要書類、手続きの期限などについての疑問が多くあります。ここではよくある質問と意外に見落とされがちな注意ポイントをまとめました。
5-1.節税対策に関する疑問・リスク
節税のために物件の名義を一時的に移転させると、贈与税や譲渡所得税が想定外に高額となるケースもあります。
不動産の名義変更を形式的に行っても、その実質が税法上の「贈与」や「売買」と認められない場合や、税負担を不当に回避するための行為とみなされる場合があります。
このような場合、税務当局は取引の実態(実質)に基づいて課税判断を行うため(実質課税の原則)、意図しない税金(贈与税や、譲渡所得税など)が課されたり、当初想定していた額より高額になったりするリスクがあります。
例えば親から子へ名義を変えて後で買い戻すなどの手法は、税務当局に不自然と判断されると追加課税やペナルティが課されるリスクがあります。
親から子への名義変更と、その後の買い戻しといった一連の行為が、実質的な所有権の移転を伴わない、あるいは税負担を不当に減らす目的の「仮装行為」や「迂回行為」であると税務当局に判断された場合、その行為は税務上無効とみなされることがあります。
その結果、本来あるべき課税関係に基づいて税額が再計算され、追加で税金(追徴課税)が課される可能性があります。
さらに、意図的な税逃れと判断された場合には、過少申告加算税や重加算税といったペナルティ(加算税)が課されるリスクも伴います。
このような名義の移転を含む複雑な取引や、税務判断が関わる行為については、専門的な知識なしに安易に行うことは非常に危険です。
税法に関する専門家である税理士は、個別の状況に基づいた適切な税務アドバイスやリスク評価を行うことができます。
事前に税理士に相談し、税務上の問題がないか慎重に検討することは、トラブルや予期せぬ税負担を回避するために不可欠です。
5-2.名義変更の遅れにともなうトラブルの回避
相続などで名義変更を先延ばしにすると、相続人が増えたり、戸籍謄本などの取得が難しくなったりして手続きが複雑化するおそれがあります。
また、売買で名義変更を行わずに放置すれば、買主側が不測の損害を受けるリスクも出てきます。
いずれの場合も、実際の状況と登記内容を早めに一致させることが、将来的な紛争やトラブルを防ぐ最良の手段です。
登記名義を放置することで起こりうるリスクとして次の例があります。
- 相続登記義務違反による罰則
- 相続人の数が増え権利関係が複雑化してしまう
- 必要書類の入手が困難になる
- 第三者に権利を主張できない
・ 不動産の売却ができない
・ 担保権設定による金融機関からの融資を受けられない
- 二重譲渡される
- 税制上の優遇措置が受けられない
このようなリスクを回避するためにも、早めの手続きが必要です。
関連コラム
- 相続登記をしないとどうなる?相続登記の放置リスクと対策を徹底解説 相続登記は法律上の義務であり、正当な理由なく登記手続きを行わないと罰則を受けるリスクがあります。それ以外にも不動産の有効活用や税制上の優遇措置が受けられないなど様々な問題が生じます。こうしたリスクの基礎知識だけでなく、相続登記申請ができない場合の対応方法についても司法書士が解説しています。
6.まとめ
登記の名義変更手続きは、さまざまな書類の収集と登記の原因に応じた手続きが必要になりますが、法的に重要な意味を持つため、早めかつ正確に行うことが望まれます。
自力で行う場合も専門家に依頼する場合も、情報収集をしっかり行いつつ、適切な方法を選択しましょう。
登記の名義変更は、相続や贈与、離婚による財産分与、不動産売買など、幅広い場面で実施される重要な作業です。
書類の不備や税金の未申告などがあると、大きなトラブルに発展する可能性もあります。特に相続登記は義務化されているなか、期限や必要書類を十分に理解し、早めに動き始めることが大切です。
上垣司法書士事務所では、不動産登記の名義変更手続きをしたい方のフルサポートをしています。
登記申請に必要な資料の収集、登記申請書の作成、法務局への申請とやりとりなどお任せいただけます。
複雑な権利関係に基づく登記申請や、生前対策としての不動産の贈与などについても、ぜひお気軽にお問い合わせください。
税理士や弁護士とも連携しており、ご依頼の際には法律トラブルや相続税申告に関する相談のご紹介も可能です。
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